研究実績の概要 |
我々はこれまでに、配位子の 5’位にカチオン性ペプチドとしてKKGG(K:リシン、G:グリシン)テトラペプチド導入した両親媒性トリスシクロメタレート型イリジウム(Ir)錯体が、ヒト白血病T細胞株である Jurkat 細胞の細胞膜に作用することで細胞死を誘導することを見出した(Bioconjugate Chemistry, 26, 857-879 (2015))。本研究では、光反応性基であるジアジリンを導入したカチオン性両親媒性 Ir 錯体を設計・合成し、Ir 錯体が結合するがん細胞表面のターゲット分子の同定に取り組んだ。昨年度は、フォトアフィニティーラベリングおよびプロテオーム解析を行った結果、カルシウム結合タンパク質であるカルモジュリンが、Ir 錯体の標的分子の一つであることが示唆された。 今年度は、カチオン性ペプチドの導入位置と細胞死誘導活性の関係性を評価するため、配位子の 4’位に KKGG テトラペプチドを導入した Ir 錯体を設計・合成し、Jurkat 細胞に対する細胞死誘導活性を評価した。その結果、5’位よりも 4’位にぺプチドを導入した Ir 錯体の方が優れた細胞死誘導活性を示すことが分かった。また、4’位にペプチドを導入した Ir 錯体に対して光反応性基であるジアジリンを導入し、フォトアフィニティーラベリングを行ったところ、5’位に導入した場合と同様にカルモジュリンが標的分子の一つであることが示唆された。さらに、Ir 錯体によって誘導される細胞死誘導過程において、Ir 錯体の細胞膜近傍からミトコンドリアへの移行が示唆された。今後、これらの知見をもとにさらなる検討を進めることで、カチオン性両親媒性 Ir 錯体の細胞死誘導メカニズムの核心に迫りたい。
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