平成29年度は前年度成果として得られたキラルフッ素化ジペプチドを用い、β-アミノ酸単位を有する含フッ素ペプチドの立体配座制御能を解析するためのオリゴペプチドの合成に着手した。天然型のペプチドにおいてα-ヘリックス構造を構築しやすいロイシン残基からなるテトラペプチドの合成を検討したものの、溶媒への難溶解性から目的のペプチドの合成は困難を極めた。 オリゴペプチドの合成は困難であったため、フッ素化ジペプチドを利用した物性・生物活性の評価を検討することとし、加水分解酵素による本ペプチドのタンパク質分解抵抗性実験を評価した。用いる酵素に基質特異性の低い酸性カルボキシペプチダーゼYを選定し、アラニン残基を導入したジペプチドの酵素加水分解を実施した。その結果、フッ素化ジペプチドは分解されることなく保持され、加水分解抵抗性を示すことが分かった。この加水分解抵抗性がフッ素置換基の特異性によるものかどうかを検討するため、β-アミノ酸単位を有する非フッ素類縁体となるペプチドを合成し酵素分解実験を行った。残念ながら非フッ素類縁体についても加水分解は起きなかったことから、フッ素置換基の導入により加水分解抵抗性を獲得したとは言えない結果が出た。しかしながら、安定なペプチド結合の提供が可能であることから、本知見はペプチド配列中に難分解性ペプチド配列の導入が可能であることを示す興味深い結果と言える。 また、前年度見出したトリフルオロエタノールを反応溶媒に用いた条件でアミノ酸網羅的にジペプチドの合成を検討し、多くの場合で短時間でのペプチドの合成に成功し、収率の改善も見られた。応用展開研究として、トリフルオロエタノール中での反応性の改善は、ジフルオロ-β-ラクタムの硫黄求核種での開環反応に適用可能であり、チオエステル体の合成も可能であることを見出した。
|