本研究は申請者らが見出した、電子移動を利用した生物発光プローブの分子設計法の拡張を行い幅広い標的分子へ適用できるような基盤を確立することが目的である。従来はHOMOエネルギーの高い構造から基質分子への電子移動(アクセプター型BioLeT、以下a-BioLeT)を利用していたが、本研究では基質分子からLUMOエネルギーの低い構造への電子移動(ドナー型BioLeT、以下d-BioLeT)を分子設計に適用できないか検討を行った。そうすることで、これまで適用できなかった標的分子のプローブ開発が行えるようになる。昨年度までに合成、機能評価した基質ではd-BioLeTによる消光現象が観測されなかったので、本年度では新たに分子をデザインして更なる検証を行った。 電子移動の起こる効率は電子移動を起こす2つの構造の距離に依存し、距離が短いほど効率よく電子移動が起こることが知られている。昨年度までに合成したものではリンカーの炭素数が3であったため、炭素数1のリンカー構造をもつ基質を合成した。LUMOの低い構造としてニトロベンゼンを選択し、ニトロベンゼン、ジニトロベンゼンをもつ基質を合成し、発光測定を行った。その結果、ジニトロベンゼンであっても強い発光が観測され、電子移動による消光現象は観測されず、ニトロ基のないベンジル基をもつ基質よりも発光強度が大きかった。この結果は、非常にLUMOエネルギーの低い構造が励起基質分子の近傍にあったとしても電子移動が起こらないことを示しており、そのことがむしろ発光量子収率の改善に寄与した可能性が考えられる。このような現象はこれまで知られておらず、本研究を通して合成した基質によって、高効率の発光基質の開発につながる知見を得ることができた。
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