29年度までの検討において難水溶性薬物及びポリマー、界面活性剤三成分を混合粉砕することにより、水分散時に薬物ナノ粒子を形成する製剤が調製可能であることが示された。また、固体NMR緩和時間測定により、用いるポリマーに依存して最適な粉砕条件が異なることが示された。これまでの検討で薬物ナノ粒子の形成が認められた薬物及びポリマーの組み合わせについて薬物/ポリマー間の分子間相互作用形成の解析を固体NMR測定により行った。その結果、難水溶性薬物であるNifedipine(NIF)はHPMC中に非晶質状態で分散した際に、NIFのC=O及びHPMCのOH基間において分子間相互作用を形成することが示された。その結果、非晶質NIFにおいてNIF分子間で形成された薬物間相互作用が開裂し、NIFの非晶質状態が安定に維持されることが示唆された。固体NMRによる分子間相互作用解析により薬物ナノ粒子を効果的に形成する製剤設計が可能になることが示唆された。また、得られた薬物ナノ粒子について、ラットを用いた経口吸収実験を行った。その結果、ナノサイズ化していない薬物懸濁液と比較して、薬物ナノ粒子懸濁液において顕著な経口吸収性改善が認められた。また、安定化剤として用いたポリマーの分子量に依存して薬物の吸収速度が変化することが示された。薬物ナノ粒子に吸着したポリマーについて分子状態評価を行った結果、より分子量が小さい添加剤を用いることでナノ粒子表面に吸着したポリマーの運動性が上昇し、薬物ナノ粒子の消化管粘液層の透過速度が向上することが示唆された。消化管粘液層中の透過速度の向上により薬物経口吸収速度が改善することが示唆された。これらの結果から、経口吸収改善メカニズムに基づく最適な添加剤選択により難水溶性薬物の経口吸収性を有意に改善する最適な製剤設計が可能になることが示された。
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