リソソーム膜タンパク質の多くは糖鎖修飾されているが、細胞の悪性化・がん化に伴う糖鎖不均一性変化が明らかになった例は殆どない。本研究の目的は、報告者が確立したLC/MSによる糖ペプチドの網羅的解析法を用いて、リソソーム関連膜タンパク質(LAMP)の糖鎖不均一性変化と細胞内局在制御との関係を明らかにすることである。 本年度は、まず、乳がん細胞株とその同系細胞株である周辺正常組織由来細胞株を用いて、LAMP-1の細胞内局在を調べた。リソソームマーカーである抗cathepsinD抗体、並びに抗LAMP-1抗体を用いた免疫蛍光抗体法で解析したところ、乳がん細胞において、リソソーム及びLAMP-1が核膜周辺に蓄積していることが確認された。そこで、両細胞株より不溶性膜画分を抽出してプロテアーゼで消化した。糖ペプチドを濃縮後、LC-MSで解析したところ、LAMP-1のAsn84、Asn103、及びAsn261に結合する糖鎖不均一性を明らかにすることができた。乳がん細胞における各部位における糖鎖変動を相関分析により評価したところ、Asn103に結合する糖鎖においては両細胞株で高い正の相関(r=0.9)を示したが、Asn84においては弱い正の相関(r=0.69)、Asn261に至っては負の相関(r=-0.32)を示した。すなわち、乳がん細胞において、Asn261に結合する主な糖鎖が高マンノース型から複合型へと変化していた。同様の顕著な糖鎖変化は、LAMP-2のAsn356に結合する糖鎖をはじめ、他のリソソーム関連タンパク質においても認められた。
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