昨年度までの検討で、ペプチドトランスポーターPEPT1及びPEPT2に認識され、実験動物に対して急性毒性を持たない化合物2種の合成を行った。平成31年度においては、膵臓がんASPC-1細胞の担がんマウスを作成し、合成した化合物を静脈内投与し、核磁気共鳴法による画像取得を行なった。その結果、どちらの化合物においてもがん特異的な移行は観察されなかった。一方、投与2時間後には膀胱への高い集積が両化合物において観察された。事前に行なった非担がんマウスにおける薬物動態学試験では、尿中排泄が5%以下とほとんど認められなかったため、予備試験と異なる挙動を示した。これは、担がんマウスへはフッ素による核磁気共鳴法を用いた一方、予備試験では質量分析器で定量したことに起因すると考えられた。つまり、両化合物が生体内で代謝を受け、尿中排泄されることが示唆された。肝細胞とインキュベートすることによる安定性は良好であったため、肝外組織において代謝を受けることが示唆されたが、代謝臓器の同定には至らなかった。また画像の取得には少なくとも1時間程度の時間を要し、また数mMの血中濃度を維持することが必要と考えられた。そのため、今後核磁気共鳴法により外因的な化合物の画像取得を行うには、測定機器の感度上昇が急務と推察された。以上の検討から、核磁気共鳴法を利用した腫瘍特異的なプローブの作成には至らなかったものの、今後画像診断をする上で測定機器の進歩が必要であることが示唆された。
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