研究実績の概要 |
慢性B型肝炎は肝癌や肝硬変のリスクを高める。現在のB型肝炎治療薬は核酸アナログとインターフェロンのみであり、B型肝炎ウイルス(HBV)を排除できないため、新規作用点を持つ治療薬の開発が求められている。HBVは、その外殻タンパク質が、Na+・胆汁酸トランスポーターであるNTCPと結合することで肝細胞に侵入する。そこで、HBVの外殻タンパク質とNTCPの結合様式を原子分解能で明らかにし、その結合を阻害することによる画期的治療薬の創製を目指した。 NTCPとの結合に重要なHBV外殻タンパク質のpreSは、大腸菌発現系を用いた大量調製法を確立した。PreSは、preS1とpreS2に分けられる。PreS、preS1、preS2のそれぞれの1H-15N HSQC測定による溶液NMR解析を行ったところ、preSはpreS1とpreS2のスペクトルとよく重なった。このNMRシグナルは、1Hの化学シフト値で狭い領域に分布したことから、これらが単独状態では特定の立体構造を形成していないことが分かった。13C, 15Nで安定同位体標識したpreS1とpreS2を用いて、三重共鳴測定によりNMRシグナルの帰属を確立した。また、HBVの感染に重要なpreS1のN末端ミリストイル基について、ミリストイル基転移酵素を大腸菌発現系で調製し、in vitroにおいてミリストイル化を行う方法を確立した。ミリストイル化preS1(myr-preS1)は水溶性が低下しており、界面活性剤ミセルとの相互作用の溶液NMR解析から、preS1の残基番号2-78の領域が膜と相互作用することが示唆された。以上によりNTCPとの相互作用解析に向けた準備が整った。NTCPは大腸菌発現系での調製法確立を進めており、精製法確立に取り組んでいる。NTCP調製の報告がある無細胞発現系の利用にも着手したため、今後検討を進める。
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