研究課題
本年度は主に、1)イメージング質量分析計を用いた虚血心臓のリゾリン脂質局在解析と、2)リゾホスファチジン酸受容体LPA3作動薬の抗炎症作用機構の解析を行った。虚血心臓のイメージングからは、ドコサヘキサエン酸(DHA)結合型リゾリン脂質の心筋梗塞部位への蓄積とともに、一部のDHA含有ジアシルリン脂質の虚血部位での減少が明らかとなった。特にリゾリン脂質の中でもリゾホスファチジン酸(LPA)に着目すると、虚血部位で増加しているのはDHA-LPAのみであった。またLPA産生酵素オートタキシン(ATX)の阻害剤を用いた評価から、DHA-LPAの蓄積はATX非依存的であることが示唆された。LPA3作動薬(T13)を用いた実験からは、敗血症モデルマウスへT13を投与することで抗炎症サイトカインの上昇、炎症性サイトカインの減少が認められることが明らかとなった。一方、予想外の点としては、この作動薬の作用はLPA3KOマウスでは部分的にのみ消失した。今回用いたLPA3作動薬T13は、高濃度ではLPA3以外のLPA3受容体に作用することから、複数のLPA受容体が抗炎症作用の発揮に関与していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初の主な計画である心筋梗塞における不飽和型LPA(DHA-LPA)の産生機構の解明、LPA3によって制御される新たな迷走神経機能の解明について、両者ともに順調に進展している。前者に関しては、従来知られているLPA産生酵素ATXが関与しないという興味深い知見を得ることができた。リゾリン脂質、ジアシルリゾリン脂質のイメージングの結果を受けて考えると、虚血部位では細胞内でDHA含有リゾリン脂質の蓄積が起きている可能性が示唆され、これを証明することができれば新規LPA産生経路を提唱できると考えられる。後者に関しても、LPA3作動薬を用いた薬理評価は順調に進んでおり、この結果とKOマウスの結果を組み合わせて評価することで、真のLPA3を介した作用を見いだすことができている。
虚血部位におけるDHA含有リゾリン脂質の蓄積機構の解析については、細胞内ホスホリパーゼの関与も視野に入れた評価を行う。既にその候補となるiPLA1の欠損マウスの導入手続きを進めており、平成29年度に解析可能である。また単離心筋細胞を用いたin vitroでの解析からそれ以外の候補酵素の可能性を検討していく。LPA3の新規生理機能に関しては、予定どおり、LPA3作動薬を用いた際の迷走神経関連パラメーターの評価を行う。また予想外の結果を得られたLPA3作動薬による抗炎症作用の解析については、LPA3以外の関与する受容体の同定を各受容体KOマウスを用いて進めるとともに、炎症時におけるLPAの産生変化についても質量分析計を用いて明らかにしていく。
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J Lipid Res.
巻: 58 ページ: 433-442
10.1194/jlr.P071803