研究課題
本研究においては、目標のひとつとして「ASK-MAPK経路による脂肪分化メカニズムの解析」を設定しているが、本年度はこの点に注力した研究を行った。脂肪細胞は白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞に大別されるが、前者は主にエネルギー貯蔵能を所持しているのに対し、後者はエネルギー消費能を持つ。それ故、褐色脂肪細胞の分化誘導もしくは活性化が代謝性疾患の創薬ターゲットになり得ると考えられている。しかしながら、その分化過程におけるシグナル伝達機構の解析は遅れていた。我々はDNAマイクロアレイ解析の結果からASK1欠損褐色脂肪組織の機能に注目し、ASK1が褐色脂肪組織における遺伝子発現制御に寄与していることを明らかにした。さらに、褐色脂肪細胞の分化過程においてPKA-ASK1-p38経路が活性化することで遺伝子発現を制御していることを見出した。また最終的には、本シグナル伝達経路の生理的意義として、褐色脂肪細胞の熱産生およびマウス個体のエネルギー代謝制御への貢献を証明するに至った。マウス個体の解析においては、全身性ASK1欠損マウスのみならず、脂肪細胞特異的なASK1欠損マウスも用いることにより、脂肪細胞内におけるASK1の重要性も証明した。本研究結果は、ASK1経路の新たな生理意義を見出したという点のみならず、新たなシグナル伝達経路としてPKA-ASK1経路を提示したという点においても意義深い。我々は白色脂肪細胞においても当該経路が存在し、遺伝子発現を制御していることを明らかにした。現在、他の細胞種における当該シグナル伝達経路の解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
当初設定していた大目標のうちのひとつである「ASK1-MAPK 経路による脂肪分化メカニズムの解析を行うことにより、新たな代謝性疾患の治療戦略基盤を確立する。」に対し、予定通りの成果を得ることに成功した。
申請当初設定していた「転写共役因子の修飾を介したASK1による遺伝子発現制御メカニズムの解析」を進めると共に、最近新たに明らかとなった「ASK1依存的な細胞死制御メカニズム」に関する解析も併せて進める予定である。
次年度も継続的な消耗品購入が必要であり、その内訳は実験の進捗状況によって変化するため。
実験試薬や実験器具などの消耗品購入に充当する予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件)
Biochimica et Biophysica Acta - General Subjects
巻: 1861 ページ: 3030-3038
10.1016/j.bbagen.2016.09.028
Nature Communications
巻: 7 ページ: 11158
10.1038/ncomms11158