本研究の主目的は、ASKファミリー分子 (ASK1、ASK2、ASK3) の機能解析からこれら分子の生体内における生理的意義を探索し、ASKファミリーの機能制御による創薬の可能性を探求することである。我々はこれまで、褐色脂肪組織に注目した解析から、ASK1が熱産生因子の発現制御を介して、個体の体温調節やエネルギー代謝に寄与していることを見出してきた。一方で、ASK1が細胞外の温度変化に対して応答するという予備的な知見を得ながらも、その詳細な解析は進められないままでいた。 最近になって、摂氏8度程度の極度の低温条件下に細胞が曝されると、ASK1が活性化されることを我々は見出した。MAPK経路におけるASK1の下流因子であるp38 MAPKも同様に活性化が認められ、その活性化は刺激開始後数時間程度まで時間依存的に増強した。さらに長時間低温刺激を負荷すると、細胞内のLDH放出を伴うネクローシス様細胞死が引き起こされ、その細胞死はASK1の発現抑制やp38 MAPKの活性阻害によって抑制された。このようなプログラムされたネクローシスは近年様々な分類が為されているが、過酸化脂質の除去剤等で細胞死が抑制されるという事実から、低温刺激依存的な細胞死がフェロトーシスであることが明らかとなった。 摂氏8度程度の極度の低温環境下に長時間細胞が曝されるという状況は、一見想像し難い。しかしながら、臓器移植に伴う臓器保存において、低温刺激依存的な臓器障害は今もなお問題となっている。本研究の成果より、ASK1およびp38 MAPK依存的なフェロトーシスが低温刺激依存的な細胞死に重要であることが見出されたため、これらの阻害剤などが臓器保存液の改良に寄与することが今後期待される。
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