研究課題/領域番号 |
16K18873
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
立花 雅史 大阪大学, 薬学研究科, 助教 (80513449)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 粘膜ワクチン / アデノウイルスベクター / Type I IFN / 炎症性樹状細胞 / Th17 |
研究実績の概要 |
アデノウイルスベクター(Adv)ワクチンの効果向上を目指し、Adv投与後の獲得免疫応答誘導メカニズムについて、Ⅰ型インターフェロン(Type I IFN)受容体ノックアウト(IFNAR2 KO)マウスを用い、種々の検討を行った。 投与部位の所属リンパ節における抗原特異的な細胞傷害性T細胞(CTL)の誘導、ならびにそのCTLにおける腸管ホーミング分子の発現は、野生型マウスとIFNAR2 KOマウスとの間で差が認められなかった。すなわち、CTLそのものはType I IFNシグナル非依存的に誘導されることが示され、腸管へ移行する可能性が示された。CTLの誘導や活性化にはヘルパーT細胞による制御が関与することが知られており、これまでの我々の研究成果からAdvワクチンによる粘膜面での抗原特異的なCTL誘導におけるTh17の重要性を示すデータが得られている。そこで次に、Adv投与後のTh17誘導に関わる抗原提示細胞の同定を試みたところ、Adv投与後の所属リンパ節における炎症性樹状細胞がType I IFNシグナル依存的に増加することを明らかにし、Th17誘導に炎症性樹状細胞が関与している可能性を見出した。 今後は、Adv投与部位である筋肉においてどのような抗原提示細胞がType I IFNシグナルの制御を受けているのかを明らかにし、その活性化レベルを明らかにする。また、in vitroでナイーブT細胞と共培養することで、同定した抗原提示細胞のTh17分化誘導能を評価する。 また、in vitroで分化誘導させたTh17移入によって、IFNAR2 KOマウスにおけるAdv投与後の粘膜面での抗原特異的なCTL誘導が回復するかどうかを明らかにする。さらに同様の検討を野生型マウスについても実施し、Th17の活性化というストラテジーが全身投与型の粘膜ワクチンにおいて重要であることを明らかにしていく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、投与部位の所属リンパ節におけるCTLの誘導、ならびにそのCTLにおける腸管ホーミング分子の発現についてフローサイトメトリー解析を行った。その結果、野生型マウスとIFNAR2 KOマウスとで差が認められなかった。すなわち、CTLそのものはType I IFNシグナル非依存的に誘導されることが示され、腸管へ移行する可能性が示された。CTLの誘導や活性化にはヘルパーT細胞による制御が関与することから、Advワクチンによる粘膜免疫応答誘導においては特定のヘルパーT細胞サブセットが重要な役割を担っているのではないかと考えられた。これまでの検討により、IFNAR2 KOマウスの粘膜面でIL-17産生性ヘルパーT細胞(Th17)が減少していること、ならびに所属リンパ節におけるTh17誘導に関わるサイトカインの発現低下を見出していたが、本年度の検討により所属リンパ節でのTh17の減少も見出した。次に、Th17誘導を担う抗原提示細胞を明らかにすべく、Adv感染細胞の同定を試みた。その結果、Adv投与後のTh17誘導に炎症性樹状細胞が関与している可能性を明らかにし、Adv投与後の所属リンパ節における炎症性樹状細胞の増加がType I IFNシグナル依存的であることも明らかにした。 次に、所属リンパ節において、Th17誘導に重要なIL-6はType I IFNシグナル依存的に発現上昇することから、IL-6を搭載したAdvを作製した。細胞株への感染実験ではIL-6発現は十分に確認できたものの、マウス筋肉内投与後の所属リンパ節ではIL-6発現はほとんど認められなかった。このことから、筋肉内でIL-6を過剰発現させたことで炎症性樹状細胞の所属リンパ節への移行が阻害された可能性が示唆される。 以上のように、当初の計画どおりAdvのTh17誘導メカニズムについて解析を行い、重要な知見を得ている。
|
今後の研究の推進方策 |
Th17にはCTLの分化や増殖を促進する作用が知られていることから、Th17誘導メカニズムの解明が重要な鍵であると考えられる。今後は詳細な分子メカニズムを解明するために、投与部位である筋肉におけるAdvによって惹起される自然免疫応答について解析を行い、所属リンパ節における炎症性樹状細胞の増加に繋がるメカニズムを解明する。具体的には、筋肉においてどのような抗原提示細胞(好中球、マクロファージ、炎症性樹状細胞の前駆細胞である炎症性単球など)がType I IFNシグナルの制御を受けているのかを明らかにする。重要な抗原提示細胞を同定することができれば、フローサイトメトリー解析や遺伝子発現解析を行い、その活性化レベルを明らかにする。また、in vitroでナイーブT細胞と共培養することで、同定した抗原提示細胞のTh17分化誘導能を明らかにする。次に、その抗原提示細胞を活性化できる因子を搭載したAdvの開発に取り組む。当該Adv をIFNAR2 KOマウスに投与し、Th17が誘導されるかどうか、ひいては粘膜面での抗原特異的なCTLが誘導されるかどうかを明らかにする。 また、これまでの検討により、Th17の重要性を示すデータが得られていることから、in vitroで分化誘導させたTh17をAdv投与前のIFNAR2 KOマウスに移入しておき、Adv投与後の粘膜面での抗原特異的なCTL誘導が回復するかどうかを明らかにする。さらに同様の検討を野生型マウスについても実施し、Th17の活性化というストラテジーが全身投与型の粘膜ワクチンにおいて重要であることを明らかにしていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
計画的に執行した結果、約0.01%の残額が生じた。本研究費は基金であるため、僅かではあるが次年度に繰り越すことを決めたためである。
|
次年度使用額の使用計画 |
残額はごく僅かであるため、基金が設立された背景を鑑み、全研究期間内での有益な研究費執行を行う予定である。
|