本課題では、口腔内病原細菌の生存・増殖におけるプロトン輸送 ATPase の重要性を検討し、特異的な阻害化合物を探索した。本年度は、う蝕の原因菌の一つである S. mutans のプロトン輸送 ATPase 阻害化合物の作用を検討した。その結果、クルクミン類縁体やピセタノール、ベダキリンなどのプロトン輸送 ATPase阻害剤はpH が中性の培地でS. mutansの増殖や生存率に影響を与えなかった。一方、pHが5.3の酸性培地では S. mutansの増殖を有意に抑制した。さらにpH4.3では同菌の生存率を低下させた。したがって、プロトン輸送 ATPase を阻害する化合物は S. mutans に対し、耐酸性を低下させることが示唆された。研究成果は薬学会第138年会で発表した。 また、歯周病の原因菌であるP. gingivalis に対する各種阻害剤の増殖阻害作用を検討した。プロトノフォアであるFCCPや膜電位を消失させるバリノマイシンは、いずれも強力な抗菌作用を示し、プロトンの濃度勾配がP. gingivalisの増殖に重要であることが示唆された。また、A-ATPase阻害剤のジエチルスチルベストロールとA-ATPaseと類似した構造を持つF-ATPase阻害剤のクルクミン、シトレオビリジンは、P. gingivalisの増殖を阻害した。さらにクルクミン、シトレオビリジンは、A-ATPaseが存在すると考えられるP. gingivalisの膜画分のATPase活性を低下させた。これらの結果は、P. gingivalisのA-ATPaseが増殖に重要な役割を果たしている可能性を示唆しており、歯周病に対する予防・治療の標的になり得ると考えられる。研究成果はBiochemical and Biophysical Research Communications誌で発表した。
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