研究課題
本研究では、将来的なヒト疾患への展開を視野に、sPLA2-IIA、IID、IIE、IIIの遺伝子改変マウスを用いて各酵素の皮膚恒常性と疾患における役割を検討し、これらの酵素を標的とした創薬展開に向けての理論基盤を構築することを目的としている。本年度は、まずsPLA2-IIDの遺伝子欠損(KO)マウスの乾癬モデルにおける表現型解析を行い、sPLA2-IIDが免疫のタイプによらず獲得免疫を普遍的に抑制することが立証された。また、皮膚癌モデルにおける表現型解析の結果、sPLA2-IIDはω3脂肪酸を動員して皮膚癌早期における癌免疫を賦活化することで皮膚癌を増悪させることが分かった。これらの結果から、sPLA2-IIDの免疫抑制機能はは病態によって抑制的にも促進的にも働く二面性を持つこと、さらに、癌の免疫療法の創薬標的として有望であることが示された。一方、sPLA2-IIAのKOマウス皮膚癌モデルにおける表現型解析では、sPLA2-IIAが腸管細菌の膜リン脂質を分解することで何らかの代謝物を産生し、それにより皮膚腫瘍形成に影響を与えている可能性が示唆された。そこで、腸内フローラに着目した解析を行ったところ、KOマウスは野生型マウスと比較して腸内フローラの構成が異なること、さらに、抗生物質を投与して腸内環境を変化させたマウスでは腸管における本酵素の発現が変動することが分かった。この結果は、sPLA2-IIAが腸内細菌に作用することで全身の免疫応答を調整することを強く示唆するものであると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、sPLA2-IIDによる免疫抑制作用の普遍性を確立し、論文に発表することができた(Miki et al. JBC 2016)。この成果は、「表皮細胞のsPLA2群による表皮恒常性と疾患における機能的役割分担」の一角を担うと予想している一酵素の役割を明確にしたものであり、本研究課題の目標の1つを達成したと考えられる。また、sPLA2-IIAの作用メカニズムの解明に直結するような結果が得られた点は、今後の研究を進めるにあたって大きな意味を持つ。さらに、sPLA2-IIEについては、これまでに報告してきた「表皮のsPLA2」であるIIFとは異なる脂質代謝経路を介して皮膚恒常性に関与する「毛包のsPLA2」であることを報告することができた(Yamamoto et al. JBC 2016)。これらの成果は、各sPLA2の皮膚恒常性および疾患における機能の解明が着実に進んでいるものとして評価できる。しかしながら、年度下旬に研究代表者の所属機関の異動に伴う実験停止期間があったため、当初の予定よりはやや遅れてしまった印象もある。次年度は研究環境の構築を早急に完了させ、遅れた部分を重点的に推進していく必要がある。
今後の研究は主に以下の2つの項目を重点的に推進したい。(1)sPLA2-IIAと腸管変容の:本酵素が皮膚の腫瘍免疫に影響を及ぼす作用メカニズムについて検討するため、①脂質メディエーターの産生を介して腸管免疫の調節に直接的に関わる可能性、および、②抗菌酵素として腸内細菌叢を変化させて免疫系に間接的に関わる可能性を検証する。また、腸内細菌叢を人為的に変化させた際に腸管免疫や皮膚癌の表現型がどのような影響を受けるかについて検討する。(2)他の遺伝子改変マウスへの応用:sPLA2-IIF、IIE、およびIIIの遺伝子改変マウスに各皮膚病態モデルを適用し、表皮細胞のsPLA2群による機能的役割分担を多角的にとらえるための基盤を構築する。
本年度末に研究代表者の所属研究機関の異動が予定されており、遺伝子改変マウスを用いた実験を規模縮小および停止する必要が出たため、実験計画が全体的に停滞した。これにより、解析に使用予定であった各消耗品の購入額が減少し、結果、消耗品費の使用率が低下した。
計画遅延の原因であった実験停止状況は解消されたが、研究を行う上で重要なマウスの蘇生には時間を要するため、当面の間はin vitroでの解析をより重点的に進めていく必要がある。次年度使用額は、マウスの蘇生費用およびin vitro解析を行うための消耗品費として使用し、先に次年度内で計画していた各使用内訳には変更ないものとする。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 6件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
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