研究課題/領域番号 |
16K18882
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
三木 寿美 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 特任研究員 (00632499)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ホスホリパーゼA2 / 脂質 / 皮膚疾患 / 癌 / 免疫 / 抗炎症 / 腸内細菌叢 / リポクオリティ |
研究実績の概要 |
本研究では、sPLA2の遺伝子改変マウスを用いて皮膚恒常性および皮膚疾患(接触性皮膚炎(Th1応答)、アレルギー性皮膚炎(Th2応答)、乾癬(Th17応答)、皮膚癌(慢性炎症・癌免疫))における各酵素の役割を検討し、これらの酵素を標的とした創薬展開に向けての理論基盤を構築することを目的としている。 sPLA2-IIAは一般に炎症部位に誘導されて炎症を増悪するが、マウスでは腸管に限局しているか、フレームシフト変異により全く発現していない。実際、sPLA2-IIAはマウスの系統によらず皮膚には全く検出されなかったが、sPLA2-IIA KOマウス(BALB/c系)に皮膚癌モデルを適用すると、WTマウスと比較して腫瘍発症率が大幅に低下することを見出した。このことは、腸管に限局発現しているsPLA2-IIAが何らかのメカニズムを介して皮膚病態に影響を及ぼしていることを示唆している。また、sPLA2-IIAは細菌膜リン脂質を分解する活性が非常に強く、抗菌作用を持つことが知られている。そこで、sPLA2-IIAが腸内細菌叢に影響を与えている可能性を想定し、通常飼育下のWTとKOマウスの腸内細菌叢を比較解析した。その結果、細菌種の多様性はWTと同様であったが、属レベルのクラスタリング解析で明らかな変化が認められた。さらに、WTとKOを同居飼育すると双方の腸内細菌叢が混在パターンを示し、皮膚癌モデルの表現型が消失した。これらの結果は、KOマウスの皮膚癌の表現型が腸内細菌叢の変容に起因することを強く示唆している。すなわち、sPLA2-IIAはbactericidal sPLA2として腸内細菌叢を調節しており、これに起因する全身の免疫系や代謝系の変容が間接的に遠隔組織(皮膚)での腫瘍形成に影響を及ぼしているものと想定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はsPLA2-IIA KOマウスの詳細な表現型解析を行った。その結果、本酵素がbactericidal sPLA2として腸内細菌叢を調節しており、全身の免疫系や代謝系を間接的に変化させ、遠隔組織(皮膚)での腫瘍形成に影響を及ぼしている可能性が示唆された。この成果は、遠隔組織変容の観点からsPLA2による皮膚疾患制御の新機軸を提唱する重要な成果の1つであると考えられる。 しかしながら、昨年度末の所属機関の異動に伴う実験停止および異動後のマウス等の準備の遅延があったため、当初の予定よりはやや遅れている印象もある。現時点ではこれらの要因はほぼ解消されて来ており、次年度は遅れた部分を重点的に推進していく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は主に以下の2つの項目を重点的に推進したい。 (1)sPLA2-IIAと遠隔組織変容:腸管に発現するsPLA2-IIAが皮膚腫瘍免疫に影響を及ぼす作用メカニズムについて検討するため、抗菌酵素として作用した際の腸内細菌叢の変化および全身代謝経路の変容を網羅的に検索し、免疫系に関わるその責任物質の同定を試みる。 (2)他の遺伝子改変マウスへの応用:sPLA2-IIF、IIE、およびIIIの遺伝子改変マウスに各皮膚病態モデルを適用し、表皮細胞のsPLA2群による機能的役割分担を多角的にとらえるための基盤を構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度末の所属機関の異動に伴う実験停止および異動後のマウス等の準備に時間を要し、これにより、解析に使用予定であった各消耗品の購入額が減少し、結果、消耗品費の使用率が低下した。 計画遅延の主な要因となったマウスの整備の遅れはほぼ解消されており、計画している内容を遂行するために必要な環境は整いつつある。しかし、研究に必要な試薬類・機器類・消耗品類等はまだ不足している物も多く、早急に研究環境の整備を完了させる必要がある。次年度使用額は環境整備費および遅れた研究を重点的に推進していくために使用し、先に次年度内で計画していた各使用内訳に変更はないものとする。
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