研究課題
本研究は、sPLA2の遺伝子改変マウスを用いて皮膚恒常性および皮膚疾患(接触性皮膚炎(Th1)、アレルギー性皮膚炎(Th2)、乾癬(Th17)、皮膚癌(慢性炎症・癌免疫))における各酵素の役割を検討し、酵素を標的とした創薬展開に向けた理論基盤を構築することを目的としている。sPLA2-IIAは一般に炎症部位に誘導されて炎症を増悪するが、マウスでは腸管に限局しているかフレームシフト変異により全く発現していない。実際、sPLA2-IIAはマウスの系統によらず皮膚には検出されなかったが、KOマウス(BALB/c系)に皮膚癌モデルを適用すると、WTマウスと比べて腫瘍形成率が大幅に低下した。このことは、腸管に発現しているsPLA2-IIAが何らかのメカニズムを介して皮膚病態に影響を及ぼしていることを示唆している。sPLA2-IIAは細菌膜リン脂質の分解活性が非常に強く、抗菌作用を持つことが知られている。そこで、sPLA2-IIAが腸内細菌叢に作用する可能性を想定し、KOマウスの腸内細菌叢をWTと比較した結果、細菌種の多様性はWTと同様であったが、属レベルのクラスタリング解析で明らかな変化が認められた。さらに、WTとKOマウスを同居飼育すると双方の腸内細菌叢が混在パターンを示し、皮膚癌モデルの表現型が消失した。これらの結果は、KOマウスの皮膚癌の表現型が腸内細菌叢の変容に起因することを強く示唆している。また、KOマウスについてメタゲノムおよびトランスクリプトーム・メタボローム解析をすると、WTと比べて免疫および代謝関連遺伝子群が顕著に変化し、宿主ではなく主に微生物由来の糞便代謝産物が大きく変動することが明らになった。すなわち、sPLA2-IIAは腸内細菌叢を調節しており、これに起因する全身の免疫系や代謝系の変容が間接的に遠隔組織(皮膚)での腫瘍形成に影響を及ぼしているものと想定された。
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Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Molecular and Cell Biology of Lipids
巻: 6 ページ: 803-818
10.1016/j.bbalip.2018.08.014
https://lmmhs.m.u-tokyo.ac.jp/