研究課題
腎虚血再灌流障害の病態形成には再灌流後の活性酸素種 (ROS)産生が重要であることが知られているものの、ROSの産生源やROSが病態形成に寄与する機序は不明なままである。また我々は、腎虚血再灌流処置による急性尿細管壊死形成の最初の引き金は腎血流変化が起きる部位に最も近い血管内皮細胞にあると仮説を立てた。血管内皮細胞においてextracellular signal-related protein kinase 5 (ERK5)は酸化ストレスやサイトカイン、成長因子などで活性化されることが知られており、活性化によって内皮機能を保つことが知られている。しかし、腎虚血再灌流障害において血管内皮細胞由来ERK5が病態形成に対して保護的に作用するか否かは明らかではない。そこで本研究では、1.immuno-spin trapping法 (IST)を用いてROSの産生源を特定すること2.内皮特異的ERK5欠損マウスを用いて血管内皮細胞由来ERK5が腎虚血再灌流障害による急性尿細管壊死の形成やROS産生に影響するか否かを検討することを目的とした。ISTはスピントラップ剤である 5,5-dimethyl-1-pyrroline N-oxide (DMPO)を用いてラジカルを補足させ、その後その複合体に対する抗DMPO nitron付加体抗体を用いて検出を行う。我々は、スピントラップ剤であるDMPOの投与下によっても腎虚血再灌流による腎障害がDMPO非投与下同様に認められることを確認した。また我々はmyoglobinに過酸化水素を反応させ、生成したmyoglobinラジカルがELISA法を介したISTにより検出可能であることを確認した。次に我々は、ERK5 floxedマウスとcadherin 5-Creトランスジェニックマウスを交配させ内皮特異的ERK5欠損マウスを作出した。
2: おおむね順調に進展している
我々は、スピントラップ剤であるDMPOの投与下によっても腎虚血再灌流による腎障害がDMPO非投与下同様に認められることを確認し、さらに試験管内の実験においてはELISA法を用いてmyoglobinラジカルがISTによって検出できることを見出した。したがってこの技術をマウス腎虚血再灌流モデルのin vivo実験に適用すれば、本研究の主な目的が達成できる。また内皮特異的ERK5欠損マウスの作出に成功したため、本マウスに腎虚血再灌流処置を適用し病態形成への影響を検討することにより、2つ目の主な目的である血管内皮細胞由来ERK5が腎虚血再灌流障害による急性尿細管壊死の形成に対して果たす役割の解明を達成することが可能である。
現在、ISTをin vivo実験に適用するために、DMPOの投与時期、虚血時間、再灌流から試料採取までの時間について条件検討を行っている。さらに今後は、免疫組織染色を用いてラジカル体をISTにより検出できるよう努め、腎虚血再灌流によるROSの産生源を特定する。また、内皮特異的ERK5欠損マウスに腎虚血再灌流処置を適用し、病態形成への影響およびROS産生などを検討する。
3月24日-26日の学会参加については、次年度に精算が行われる。また、2016年度内に購入予定であった試薬の購入が、在庫や納品日、価格が高額、使用期限の短さなどの理由により2017年度初めに延期された。
3月24日-26日の学会参加については、次年度に精算を行うこととする。
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