研究課題/領域番号 |
16K18890
|
研究機関 | 大阪大谷大学 |
研究代表者 |
道永 昌太郎 大阪大谷大学, 薬学部, 助教 (60624054)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ETB受容体 / 脳浮腫 / アストロサイト |
研究実績の概要 |
平成28年度の研究計画では、エンドセリンETB受容体遮断薬による脳外傷後の脳浮腫に対する有効性の評価を行うことを目的とした。流体衝撃による脳外傷を与えたマウスの側脳室内にETB受容体遮断薬であるBQ788を投与することにより、脳外傷後の血液脳関門の破綻により生じる脳血管の過剰な透過性亢進が抑制され、脳水分含有量の増加も抑制されていたことから、ETB受容体遮断薬が抗脳浮腫作用を示すことが確認できた。また、臨床での応用を想定して、BQ788をマウスの静脈内より投与した場合でも抗脳浮腫作用を示すことが確認できた。現在、脳浮腫に対する治療薬はかなり限られているが、本研究成果よりETB受容体遮断薬が新規脳浮腫治療薬となりうる可能性が示唆された。中枢神経系においてETB受容体はアストロサイトに多く分布しており、活性型アストロサイトより産生される血管透過性亢進因子は脳血管の透過性を過剰に亢進させることで、脳浮腫発生の一因となっているため、ETB受容体遮断薬による抗脳浮腫作用の機序としてアストロサイトにより産生される血管透過性亢進因子に注目した。脳外傷を与えたマウスの脳組織では、血管透過性亢進因子であるMatrix metalloproteinase 9 (MMP9) やVascular endothelial growth factor-A (VEGF-A)の発現が増加しており、これらの発現増加はBQ788の投与により抑制されていたことから、ETB受容体遮断薬による抗脳浮腫作用にMMP9やVEGF-Aの発現抑制が関わっていることが示された。平成28年度の研究成果により、ETB受容体遮断薬が脳外傷後の脳浮腫に対して有効性を示すことを確認することができ、また、その有効性に関わる機序の一端を解明することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究においては、科研費の申請前から脳外傷モデルの構築や脳外傷後の脳浮腫の時間推移などの必要最小限の条件検討は行われていたため、ETB受容体遮断薬の脳外傷マウスへの投与スケジュールを早い段階で決定することができた。本研究を遂行するための最低限の手技に関しても、研究スタッフ全員が迅速に習得することができたので、分担して効率良く作業を行うことができ、想定していたよりも早く研究を進行することができた。ETB受容体遮断薬の脳浮腫に対する抑制効果に関しても、マウス間でのばらつきが予想以上に少なかったため、早い段階でETB受容体遮断薬の抗脳浮腫効果を確立することができ、抗脳浮腫作用の機序を解明していくところまで研究を進めることができた。また、本科研費によりETB受容体遮断薬などの本研究に必須となる試薬類や実験動物の購入を例年以上にスムーズに行うことができ、当初の計画以上に研究を進展させることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
ETB受容体遮断薬の脳浮腫に対する抑制効果の機序として血管透過性亢進因子の関与が示されたので、血管透過性亢進因子の標的として知られている血管内皮細胞の細胞膜上に発現するタイトジャンクションタンパク質に注目する。タイトジャンクションタンパク質により隣り合った血管内皮細胞同士がつながることで、物理的なバリア機能を構築し、血管内容物が脳実質内への漏出するのを防いでいる。これまでの様々な研究報告により、血管透過性亢進因子によるタイトジャンクションタンパク質の発現減少が脳浮腫の一因となっていることが知られている。我々の研究においても、脳外傷を与えたマウスの脳組織において、タイトジャンクションタンパク質が減少することが確認できたので、ETB受容体遮断薬がタイトジャンクションタンパク質の減少を抑制できるかどうかを確認していく。 これまでの研究では脳外傷後の病態として脳浮腫に注目してきたが、脳浮腫は脳傷害による急性期にみられる病態であり、脳浮腫を改善できた場合でも、慢性的な炎症性傷害による神経細胞のダメージにより運動機能障害や記憶障害などが引き起こされてしまう場合がある。従って、ETB受容体遮断薬の脳外傷後の炎症性傷害に対する効果を確認することが必要であると考えられる。脳傷害により引き起こされる炎症反応の評価として、好中球の脳実質内への漏出、脳組織におけるサイトカイン量の変化、シクロオキシゲナーゼや一酸化窒素合成酵素などの発現量および酵素活性を確認し、これらに対するETB受容体遮断薬の効果を検討していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題を遂行するために必要であった試薬や消耗品のまとめ買いを行うことができたため割引価格で購入でき、単価を安くすることができた。また、抗体を購入する際もいくつかの抗体はキャンペーンと重なったため、割引価格で購入することができた。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成29年度以降の研究では、これまで脳傷害の病態として注目してきた脳浮腫以外にも、新たに炎症性傷害にも注目していく予定であり、平成28年度に購入した脳浮腫の評価のために必要な消耗品がなくなった際の補充や、炎症性傷害を評価するための新しい試薬や消耗品を購入するための費用に当てていく予定である。
|