研究課題/領域番号 |
16K18892
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研究機関 | 姫路獨協大学 |
研究代表者 |
山本 泰弘 姫路獨協大学, 薬学部, 准教授 (70533850)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 腎臓癌 / プロテオミクス |
研究実績の概要 |
臨床的に抗がん剤が効きにくい腫瘍である腎臓癌を研究対象とし、外科手術が適用不可の症例、あるいは外科手術後の腎臓癌に対する薬物治療の可能性を探索することを目的とする。候補薬剤として、内因性抗がん物質である15-deoxy-Δ12,14-prostaglandin J2 (15d-PGJ2)、近年開発が進んでいる分子標的薬としての抗体などを用い、腎臓癌に対する作用およびそのメカニズムを解析することで、難治癌である腎臓癌の新規治療法の開発を目指す。 本年度は、培養細胞を用いたプロテオーム解析によって、新規腎臓癌治療薬の創薬標的タンパク質を同定し、同定したタンパク質の阻害剤や抗体あるいはそのタンパク質活性を増強する薬剤の中から、腎臓癌細胞の増殖・遊走を抑制するものがないか探索する検討を行った。腎臓癌細胞株caki-2を用いて、15d-PGJ2が結合するタンパク質についてプロテオーム解析を行った結果、解糖系酵素 enolase、分子シャペロン heat shock protein、シグナル伝達因子 14-3-3 等が、15d-PGJ2に結合することを見い出した。次に、これらのタンパク質に対する特異的抗体を用いて、腎臓癌細胞の増殖・遊走を抑制するものがないか探索する検討を行った。しかしながら、上記3種類のタンパク質に対する抗体においては、増殖や遊走を抑えるものは見出せなかった。15d-PGJ2単独処置における腎臓癌細胞に対する抗癌作用の評価研究として、癌細胞の遊走に及ぼす影響を検討した。15d-PGJ2をcaki-2に適用すると、細胞死を誘導しない低濃度において、腎臓癌細胞の遊走を阻害することが明らかになった。また、15d-PGJ2の腎臓癌細胞遊走阻害作用はMAPキナーゼ経路を介することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
腎臓癌細胞において、15d-PGJ2と結合するタンパク質をプロテオーム解析によって数種類同定することができたが、正常腎臓細胞と腎臓癌細胞のタンパク質発現をプロテオーム解析によって比較し、新規治療薬標的となるタンパク質をスクリーニングすることを目的とした検討においては、腎臓尿細管上皮細胞タンパク質の抽出に時間を要しており、未だプロテオーム解析に至っていない。その理由として、腎臓尿細管細胞は正常細胞ゆえ、分裂回数に上限があるためであり、大量のタンパク質を効率的に得ることができないことが挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
プロテオーム解析によって同定したタンパクについては、平成28年度に抗体を用いた検討を行ったが、腎臓癌の増殖や遊走を抑制するものは見出せなかった。今年度はプロテオーム解析において同定した分子以外にも、過去の報告において関与が示唆されている分子についても検討対象を広げて、腎臓癌細胞の増殖や遊走に関連するものが無いか、探索を行う。15d-PGJ2単独の抗癌作用については、細胞遊走阻害作用を中心に、そのメカニズムをさらに詳細に解析する。また、正常細胞と癌細胞のサブトラクション検索についてのプロテオーム解析に用いる腎臓尿細管細胞について、培養のスケールアップを計り、より多くのサンプルを得ることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
設備備品として今年度に購入予定であった電気泳動-ウエスタンブロッティングシステムについて、当初は同タイプのもの2組の購入を予定していたが、探索するタンパク質の分子量等の性状を鑑みた結果、まずは1組のみ購入することとして、次年度以降、必要に応じて別のタイプのものを購入することになったため、本助成金での使用が少なくなったことが挙げられる。また、会議・学会発表参加費としての予算を計上していたが、他の資金で充当することができたため、本助成金での使用がなかったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
抗がん物質である15d-PGJ2、プロテオーム解析によって同定したタンパク質の阻害薬や抗体等を購入し、腎臓癌に対する抗がん作用のメカニズム解析を行う。細胞培養を行うための器具や培養液等の消耗品も購入する。また、電気泳動-ウエスタンブロッティングシステムについて、必要があれば今年度に購入したものとは別タイプのものを購入する。今年度に引き続いて次年度も、本研究の成果を学術論文、学会発表等により社会に発信するための費用として使用する。
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