研究課題
本研究の全体構想は,高等植物によって産生される二次代謝産物が多様化するメカニズムを解明・制御することで,より多様な構造の天然物の獲得を可能とするものである.特に同一種内で産生成分が多様化しているケースに着目して,多様化に寄与する要因を突き止めることを目的としている.そこで,同一種の野生個体であって実際に成分組成の大きく異なるものを複数試料入手し,成分組成と各種環境因子との相関関係について調査することを企図した.平成28年度は,試料の採集,成分分析,およびNMRメタボローム解析による成分組成の評価を実施した.試料の採集は長崎県,徳島県,北海道にて行い,Eupatorium属,Senecio属,Angelica属植物を得た.また,全国各地の圃場で栽培されたLavandula属植物,中国産のLigularia属およびEupatorium属植物を別途入手した.各試料の成分をHPLCにて分析し,種内多様性が顕著なものとして本邦産のL. angustifoliaおよび中国産のL. vellereaを見出した.続いて1H NMRスペクトルに基づく多変量解析に付した結果,それぞれ2群または3群の成分タイプに分類することができた.生育地域が近いものは同じグループに分類されており,成分組成の違いが環境的要因によってもたらされたものであることが示唆された.さらに,個別の試料についてこの分類に寄与する成分の分離・同定を試みた.その結果,本邦産のL. angustifoliaでは糖などの一次代謝産物が,一方,中国産のL. vellereaでは1種のセスキテルペンが寄与成分であることを明らかにした.以上の成分研究において,計24種の新物質を単離・構造決定した.
2: おおむね順調に進展している
平成28年度計画として記載した試料採集,成分分析,およびNMRメタボローム解析を予定通り実施し,実際に同一種内で成分組成の異なる野生個体を複数入手できた.従って,平成29年度計画実施に向けての基盤づくりは達成したと考えられる.また,各試料の成分をそれぞれ分離・精製することによってマーカーとなりうる成分を同定でき,24種の新物質も単離・構造決定した.種内多様性に関する実例は多いほど望ましいため,他の植物でも同様に種内多様性の大きな試料を確保する必要があると考えている.
引き続き当初計画に従い,平成29年度は成分組成と具体的な環境因子との相関関係について調査する.試料の採集時に収集した各種環境因子に関するデータを基に,成分組成の異なる野生個体から得た細胞を様々な条件下で人工培養し,マーカー成分の変動を追跡する.一方,フィールドでの試料採集および成分分析も継続し,平成28年度に採集した植物の試料数を増やすとともに,他に種内多様性が顕著な種を探索する.
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