本研究の全体構想は,高等植物によって産生される二次代謝産物が多様化するメカニズムを解明・制御することで,より多様な構造の天然物の獲得を可能とするものである.特に同一種内で産生成分が多様化しているケースに着目して,多様化に寄与する要因を突き止めることを目的としている. 前年度までにLavandula angustifoliaのNMRメタボローム解析を実施し,生育地域によって変動の大きい主成分を同定した.本年度は,成分タイプが異なる野生個体から得た細胞の人工培養による成分タイプの相互変換に着手し,引き続き検討を行っている.また,相対的に含量の少ない二次代謝産物に主成分よりも強力な抗酸化活性を見出し,新物質を含む活性成分を単離した.活性成分の組成と地域特性との相関は認められず,環境因子以外の要因が大きく影響することが示唆された. Ligularia lamarumでも,同じ地点で採集した試料の成分タイプが個体ごとに異なる事例を見出した.一部の個体においては核ITS領域の塩基配列に遺伝子侵入の痕跡も認められたが,必ずしも成分タイプの違いには対応しておらず,遺伝子侵入の影響の現れ方は限定的であることが判明した. その他,前年度までに採集した試料の中で,LC-MS分析の結果成分に関する種内多様性が顕著であったEupatorium属やLigularia属植物についても個別に詳細な成分分析を実施し,研究期間を通じて計54種の新物質を単離・構造決定した.
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