研究課題/領域番号 |
16K18899
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
宮川 和也 国際医療福祉大学, 薬学部, 講師 (10453408)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 胎生期ストレス / 妊娠期ストレス / 不安 / エピジェネティクス / ヒストン修飾 / ヒストン脱アセチル化酵素 / 抑肝散 / 漢方薬 |
研究実績の概要 |
本研究では、抑肝散の胎生期ストレス誘発不安感受性亢進に対する改善効果のメカニズムを、エピジェネティクスの視点から脳内セロトニン神経系に着目して明確にすることを目的としている。平成29年度では、ストレス非適応モデルマウスを作成する過程でヒストン脱アセチル化酵素阻害薬を投与することで、ストレス適応が促進されること、また、セロトニン合成酵素(トリプトファン水産化酵素:TPH)の発現亢進が誘導されることを見出した。平成30年度では、さらにその詳細分子メカニズムの探索を試みたがTPHの発現を制御する因子の変動は認められなかった。 また、平成29年度の研究成果(胎生期ストレス刺激による不安惹起を抑肝散で抑制するモデルマウスの脳内において、様々なヒストン修飾の変化を見出すことに成功した。そこで、平成30年度では、胎生期ストレスにより、脳内ヒストン修飾酵素の発現について、多角的な検討を行った結果、胎生期ストレス刺激により、成長後の海馬において、ヒストン脱アセチル化酵素2(HDAC2)の発現が有意に増加していることを見出した。このことは、胎生期ストレス刺激が、成長後の脳内において、ヒストン脱アセチル化によるヘテロクロマチン化を不可逆的に惹起し、遺伝子転写を抑制的に制御する危険性を示す結果である。現在、生化学的手法に従い、不安の責任神経であるセロトニン神経系の機能分子の発現変化について、ヒストン修飾との関連性を含めて検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度において、胎生期ストレス負荷モデルマウスを作成する際に、期待通りのマウスが受胎せずに、計画していた実験を実施するに十分な脳サンプルを用意するに至らなかった。モデル動物の作成には3か月継続した実験期間を確保する必要があるため、次年度に実施することとした。そのため、全体的な研究計画が遅れ、費用についても次年度に持ち越すこととした。なお、平成30年度に持ち越したモデル動物の作成では、胎生期ストレスが不安を惹起し、抑肝散を幼少期に慢性投与することで回復するとの知見を再現性良く得ることができ、サンプル採取に至った。現在、生化学的検討を進めている。 一方、すでに取得してあった脳サンプルを用いて、胎生期ストレス負荷により、海馬HDAC2の発現低下が惹起されるとの予定以上の知見を得ることができたため、総合的には「やや遅れている」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に、胎生期ストレス刺激により、成長後の海馬においてHDAC2の発現が有意に増加していることを見出した。この知見は、胎生期ストレスが成長後の脳神経系における遺伝子発現を撹乱する原因として極めて重要な知見と言える。従って、今後、その生理的意義について、詳細に検討していく予定である。具体的には、胎生期ストレス刺激による海馬でのセロトニン神経機能分子の発現変化を検討する。また、その発現変化に基づくヒストン修飾を検証するために、海馬における網羅的ヒストン解析キットを用いて多角的なヒストン修飾を検討する。 さらに、上記の知見で得た変化が、抑肝散の慢性投与により回復が認められるかについても検証を行うことで、胎生期ストレスが惹起する不安感受性の増大と、抑肝散の改善効果について、生化学的なエビデンスを構築していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度において、胎生期ストレス負荷モデルマウスを作成する際に、期待通りのマウスが受胎せずに、計画していた実験を実施するに十分な脳サンプルを用意するに至らなかった。モデル動物の作成には3か月継続した実験期間を確保する必要があるため、次年度に実施することとした。そのため、全体的な研究計画が遅れ、費用についても次年度に持ち越すこととした。
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