申請者らはこれまでに、胎生期にストレス刺激を負荷されたマウスでは、成長後、不安感受性の亢進やストレス適応形成が障害されること、また、これらが脳内セロトニン神経機能の異常に起因する可能性を報告した。また、本研究では、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬がストレス適応を促進することを明らかにしている。本年度は、これらの知見を基盤とし、胎生期ストレス刺激によるストレス応答と脳内エピジェネティクス制御機構について、生化学的検証を試みた。特筆すべき知見としては、ヒストン脱アセチル化酵素の発現量を網羅的に解析した結果、妊娠期に強度なストレスを曝露された母マウスから生まれた仔が、成長後の海馬でヒストン脱アセチル化酵素2(HDAC2)の発現亢進が引き起こされることを見いだした。HDAC2は、様々な精神疾患の病態モデルで変動が認められることが報告され、また、様々な精神疾患治療薬により変動することが報告されており、近年、精神科領域で注目されている因子である。妊娠期の強度なストレス刺激がHDAC2の発現増加によりヘテロクロマチン化を誘導する可能性が示唆された本研究成果は、胎生期ストレスが誘発する成長後のストレス脆弱性の治療ターゲットになり得ることが示唆された。 また、本研究では、胎生期ストレスにより惹起された不安感受性の亢進は、抑肝散を幼少期に慢性投与することで回復することを明らかにしている。そこで、その分子基盤について、エピジェネティクス制御の視点から改名を試み、ヒストン修飾の変化をもたらす知見をえた。しかしながら、そのヒストン修飾と、脳内セロトニン神経機能分子の発現変化を裏付ける知見を得るには至らなかった。
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