柿蔕湯は柿蔕,丁子,生姜で構成され,難治性の吃逆に対症療法として用いられる.そのうち柿蔕については高極性成分の報告に乏しいため詳細な成分精査を行った結果,1種の新規化合物を含む29種の化合物を単離し,詳細なスペクトル解析からそれらの構造を決定した.また,柿蔕湯および各構成生薬の熱水抽出物のHPLC分析結果の比較から,柿蔕湯の主要成分はいずれも丁子の熱水抽出物由来であることが判明した.そのため,丁子の熱水抽出物の成分精査を行い,柿蔕湯の成分と比較した結果,主要成分は没食子酸,エラグ酸,ビフロリン,イソビフロリンであることが明らかになった.加えて,柿蔕湯のHPLC分析では山なりのバックグラウンドが観察されたことから,柿蔕湯には柿蔕の縮合型タンニンが豊富に含まれることが示唆された. 柿蔕湯(煎液,エキス製剤),柿蔕湯の主要成分,柿蔕の70%アセトン抽出物およびそれらの分画物について,各種ヒト由来がん細胞種(Caco-2,Hep3B,A549,AGS)に対する細胞増殖抑制活性を行った(抽出物および分画物は終濃度12.5~100μg/mL,化合物は終濃度12.5~100μM).その結果,柿蔕湯(煎液,エキス製剤)ではA549細胞およびHep3B細胞に対して弱い細胞増殖抑制活性を認めた.また,柿蔕湯の主要成分であるエラグ酸はAGS細胞に対して濃度依存的に強い細胞増殖抑制活性を,Hep3B細胞では強い細胞毒性を認めた.さらに,縮合型タンニンを豊富に含む画分である柿蔕の70%アセトン抽出物の水分画物では,Hep3B細胞に対して濃度依存的に弱い細胞増殖抑制活性を,Caco-2細胞に対して100μg/mLで弱い細胞増殖抑制活性を示した.細胞種によって活性は異なるが,各細胞に対して細胞増殖抑制活性を示したことから,柿蔕湯の摂取はがん転移の予防に寄与する可能性が示唆された.
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