研究実績の概要 |
既存の薬には, 平面的な構造の化合物が多い. 一方で, 天然物のように立体的な化合物のほうが, 薬として有利であることが指摘されている. しかし, このような化合物の合成には一般に困難を伴う. もし, 立体的な創薬候補化合物群を容易に構築できる手法が存在すれば, 革新的な新薬を創出する上で極めて有用だと期待される. これに対して本研究では, 7-アザノルボルネン (ANor)という立体的な化合物を修飾することで, 多様な創薬候補化合物群を簡便に得る手法の確立を目指すこととした. ANorには歪みアルケン部位が存在するため, click反応の一種である逆電子要請型ディールス-アルダー (iEDDA)反応により, 容易に修飾可能だと期待した. さらに, ANorには様々な部位・方向に置換基を導入することが可能であり, click反応部位である末端アルキンやアジドを導入することで, 多様な構造修飾が可能だと考えた. 平成28年度には, ANorの合成法を確立し, iEDDAにおけるANorの反応性について検討を行った. 一般に, 歪みアルケンの電子密度が高いほど, iEDDAは迅速に進行すると考えられている. しかし, ANorの場合, 電子密度以上に7位窒素原子の平面性が重要であることが判明した. 本研究課題は創薬を志向したものであったが, ANorのiEDDAが分子連結法として, 主にケミカルバイオロジーの分野でも有用であることを示すことができた. さらに, 末端アルキン部位を有するANor誘導体を合成し, これをアジドで修飾することで, 15種類程度の創薬候補化合物を得ることに成功した. これらの生理活性については, 現在評価中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
iEDDAにおけるANorの反応性について検討したところ, 歪みアルケン部分の電子密度以上に7位窒素原子の平面性が重要であるという新たな知見を得ることができた. さらに, この反応がバッファー中やタンパク質の共存下でも円滑に進行することを示すことができた. これより, 本反応の分子連結法としての有用性を示すことができ, この点に関しては, 当初の計画以上に進展したと言って良いであろう. 一方で, iEDDA後の反応液をLC-MSにより解析したところ, 期待される生成物であるジヒドロピリダジンと, これが酸化されたピリダジンが混在していることが判明した. 複数の生成物を与えることは, 創薬を志向する上では不利であり, この点を今後検討する必要が生じた. 期待以上に進捗した面があった一方で, 新たな検討課題が浮上したことから, (2) おおむね順調に進展している。とした.
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今後の研究の推進方策 |
ANorのiEDDAでは, ジヒドロピリダジンとピリダジンの混合物を与えるという課題が明らかになった. 文献を調査した結果, ノルボルネンおよびその他の歪みアルケンにおいても, 同様のことが問題とされているようである. ジヒドロピリダジンをピリダジンに酸化できれば, 生成物が収束すると期待されるため, iEDDAのclick反応性を損なわない酸化反応の開発に今後着手する. 末端アルキン部位を有するANorとアジドの反応では, 15種類程度の創薬候補化合物を得ることができた. 一方で, 特に7位窒素原子上にメチル基を有するANorにおいて, 反応後の精製作業が煩雑であった. マイクロプレート上で末端アルキンとアジドを反応させ, 無精製で生理活性評価に付す手法が既に報告されているので, この手法が本研究にも適用可能か検討する予定である. 末端アルキンとアジドの反応には銅触媒が必須であるが, この銅の毒性が活性評価の際に問題となることも多い. そこで, 現在用いている活性評価系が銅を許容するのか, 最初に検討を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究開始当初はケミステーションという一式150万円程度の備品の購入を予定していた. しかし, 研究を遂行する過程で, 230万円程度で購入可能なマイクロウェーブと呼ばれる機器を導入した方が本研究課題を効率よく遂行できると考えるに至った. したがって, 平成29年度予算と合わせてこちらを購入することにしたため, 次年度使用額が生じた.
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