研究課題/領域番号 |
16K18912
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
唐木 文霞 北里大学, 薬学部, 助教 (80756057)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 創薬化学 / ライブラリー構築 / click反応 |
研究実績の概要 |
研究開始当初の計画では, 平成29年度にアセチルコリン受容体を安定発現した細胞を構築し, 平成30年度に, CellKeyシステム (化合物が受容体に作用した際の細胞の形態変化を, 電気抵抗の変化として検出する評価系)による活性評価を行うこととしていた. しかし, HEK細胞には内在性のアセチルコリン受容体が発現しており, この細胞を用いればアセチルコリン受容体に対する活性の有無を評価できる. したがって, 平成29年度には, 多様なGタンパク質共役受容体に対する活性を評価することを優先し, HEK細胞に対して活性を示す化合物があった場合には, アセチルコリン受容体に対する評価系を新たに構築する方針とした. 末端アルキン部位を有する7-アザノルボルナンをアジドで修飾することにより, これまでに22種のリガンド候補化合物の合成が完了している. これらの化合物が, 共同研究先で評価可能なGタンパク質共役受容体 (オピオイド受容体, TRP受容体, グレリン受容体)に対して有する活性を, CellKeyシステムにより評価した. 現時点で活性評価が完了している13化合物のうち, 2つがグレリン受容体に, 1つがκオピオイド受容体に, それぞれ作動活性を示した. 13分の3というのは非常に高いヒット率であり, 当初目指していた「立体的なテンプレート分子である7-アザノルボルナンを修飾することで, 実際にリガンドが得られることを示す」ことができたと考えている. テトラジンを用いた歪みアルケン部位の修飾については, 前年度までに, 生成物の構造がひとつに収束しないという課題が浮上していた. これに対して, 生体適合型の反応条件により収束させる方法を見出し, 現在, 反応条件の最適化を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は, 天然物のように複雑な立体構造を有する創薬候補化合物ライブラリーを, 合成医薬のように効率の良い反応を用いて, 簡便に構築する方法を確立することである. 具体的には, 立体的で分子量の小さい7-アザノルボルナン骨格を, クリック反応で修飾することにより, リガンドを創製することを目指していた. これまでの研究により, Gタンパク質共役受容体に対する作動薬が得られたことから, この目的を達成できたと考えている. さらに, 研究開始当初はオピオイド受容体とアセチルコリン受容体のふたつを標的タンパク質に設定していたが, 共同研究先で保有している活性評価系を用いることで, 思いがけずグレリン受容体に対する作動薬の発見に至った. グレリン受容体に対する非ペプチド性の作動薬は稀少であり, この点では思いがけない進展があったと言える. 歪みアルケン部位をテトラジンで修飾した際の生成物の構造がひとつに定まらないという課題に対する解決策を模索した結果, 生体適合性の高い反応条件により, 生成物を収束させることができた. 歪みアルケンとテトラジンの逆電子要請型ディールス・アルダー反応は, 生体分子の化学修飾にも広く用いられている. したがって, 本研究課題は創薬を指向したものではあるが, 今回の発見はケミカルバイオロジーの分野でも有用だと期待される. 以上, (1) 本研究で採用した手法により実際にリガンドが得られたことに加え, グレリン受容体に対する作動薬を発見できたこと (2) 創薬のみならずケミカルバイオロジーの分野でも有用性が期待される新たな反応条件を見出したこと の2点より, 現時点で本研究課題は, (1) 当初の計画以上に進展している。 と評価した.
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今後の研究の推進方策 |
グレリン受容体およびオピオイドκ受容体に活性を示した化合物については, 誘導体を合成し, CellKeyシステムによる活性評価を行う. これにより, 構造活性相関情報を取得するとともに, より高活性な化合物の創製を目指す. さらに, 放射性標識リガンドを用いた結合試験を行うことで, 合成した化合物が実際に標的とする受容体に結合していることを示す. 創薬候補化合物ライブラリーの構築については, 合成した化合物の精製操作が煩雑であるという課題が浮上したため, マイクロプレート上で7-アザノルボルナンを修飾し, 無精製のまま活性を評価する方針であった. このときに, 触媒として用いる銅の細胞毒性が問題になるが, 予備検討の結果, 少なくともCellKeyシステムによる評価には影響しないことが判明した. したがって, マイクロプレート上で化合物を網羅的に合成し, CellKeyシステムにより各種Gタンパク質共役受容体に対する活性を評価することで, これまでより効率よくリガンドの探索が行えると期待している. さらに, 別の研究室とも共同研究を行い, 新たな標的タンパク質に対する活性も評価する予定である. 歪みアルケン部位を修飾する方法については, 生体適合性の高い反応条件により, 生成物をひとつに収束させる条件を見出している. 今後は, 種々の置換基を有するノルボルネンおよびテトラジンを用いた検討を行うことで, 基質一般性を調査する. さらに, 創薬への応用を指向し, 反応終了後に無精製のまま生理活性をするプロトコールを確立する.
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