研究課題/領域番号 |
16K18919
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
秋山 雅博 筑波大学, 医学医療系, 助教 (60754570)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 活性イオウ分子 / メチル水銀 |
研究実績の概要 |
いまだ、低濃度曝露による健康リスクが懸念されるメチル水銀(MeHg)は高い親電子性を有し、タンパク質の求核基に共有結合することで毒性を示す。この共有結合に対する生体防御機構として求核低分子であるグルタチオン(GSH)による抱合反応が従来より知られている。しかし、近年GSHよりも求核性の高い活性イオウ分子(Reactive sulfur species, RSS)が発見され、細胞内外でMeHgと代償的に反応することで、イオウ付加体である(MeHg)2S生成を介して、その親電子性を消失(不活性化)させる事が明らかとなった。このことは、従来のGSHによる防御系とは別にRSSによる生体防御機構が存在し、MeHg曝露に対する感受性を制御している可能性を示唆している。そこで、本研究ではRSSによるMeHgに対する生体防御機構の実態を明らかにし、MeHg曝露による健康リスクの軽減に貢献する事を目指した。本年度の研究では、高い求核性を有するRSSがMeHgに対する新奇リスク軽減因子であることを実証するため、RSS主要産生酵素であるcystathionineγ-lyase (CSE)の遺伝子欠損マウスを用いて、生体内RSS量を減少させ、MeHg曝露に対し高感受性を示すか否かを検討した。その結果、野生型マウスにおいて中毒症状が全く見られない濃度のMeHgにCSE欠損マウスを曝露すると、運動失調や後肢交差といった中毒症状を呈し、最終的に殆どのマウスが死亡した。また、小脳組織において顕著なアストログリオーシスの形成が見られたことから、運動失調や後肢交差といった中毒症状の原因の一つとして、小脳組織への障害が考えられた。これらの結果から、生体内RSSはMeHg曝露における新奇リスク軽減因子で有ることが示され、生体内RSS量がMeHg曝露に対する感受性を制御する重要な要因であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究成果は、RSSがMeHgの新奇リスク軽減因子であることを個体レベルで初めて実証したものであり、RSSによるMeHgに対する生体防御機構の実態を明らかにするうえで、CSE遺伝子改変マウスが有用なツールとして使用できることが確認できた。以上より、本課題の研究の計画はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はCSE欠損マウスを用いて、生体内RSSがMeHg曝露によるリスクを軽減させる鍵分子であることを個体レベルで実証した。この成果を受けて、次年度はCSE高発現マウスを作製し、これを用いて裏取り実験を展開する。また、生体内RSS量とMeHg感受性との相関関係を明らかにするために、LC/MSによる安定同位体希釈法を用いて生体内RSS量の測定を行う。さらに、RSS含有植物成分サプリメントを用いて生体内RSS量を増加させ、MeHg曝露に対する感受性が低下するかを検討する予定である。
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