研究実績の概要 |
メチル水銀(MeHg)は、食用魚類の摂取を介した低濃度曝露による健康リスクが懸念されている環境中親電子物質である。MeHgの細胞毒性の一因は、タンパク質の求核基への共有結合によると理解されている。我々は、高い求核性を有する活性イオウ分子(Reactive sulfur species, RSS)がMeHgを捕獲し、イオウ付加体形成を介してMeHgを解毒・不活性化することを報告した。平成28年度はRSS主要産生酵素であるcystathionineγ-lyase(CSE)の遺伝子欠損マウスを用いて、RSSがMeHg曝露によるリスクを軽減させる鍵分子であることを個体レベルで実証した。これらの研究成果を受けて、平成29年度は生体内RSS量とMeHg感受性との相関関係を実証することで、MeHg曝露量とそれに起因する症候関係について検討した。さらに生体内RSS量の定量方法としてLC/MSによる安定同位体希釈法を確立した。野生型およびCSE欠損マウスの臓器中でのRSS量を測定した結果、CSE欠損により肝臓や腎臓ではRSS量の低下と共にシステイン(CysSH)やグルタチオン(GSH)量の減少が見られた。また、MeHg曝露は肝臓、腎臓および小脳中のRSS量やCysSHおよびGSHも減少させた。CSEはシスチンを基質とすると、システインパースルフィド(CysSSH)のようなRSSを産生する一方で、シスタチオニンからCysSHを産生する酵素でもある。そのためCSEの欠損は、CysSHの生体内レベルの低下に伴い、GSHやCysSSHの産生を低下させることが示唆された。このようなイオウ含有低分子の減少がMeHg曝露に対する感受性を上昇させる一因であることが考えられた。
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