研究課題/領域番号 |
16K18921
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
吉田 さくら 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(薬学系), 助教 (40736419)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | セレン / 神経細胞 / 脳 |
研究実績の概要 |
必須微量栄養であるセレンはグルタチオンペルオキシダーゼ(Gpx)などの抗酸化酵素の活性中心などとして生体内で重要な機能を担っている。特に血流量が多く酸素消費が活発である脳におけるセレンの重要性は以前から報告されており,アルツハイマー病などの神経変性疾患との関連も指摘されている。しかし,脳内のセレン代謝については不明な点も多いことから,本研究では,脳内のセレン代謝過程の一端を明らかにするため,培養神経細胞およびラット脳細胞質溶解液を用いた検討を行なっている。亜セレン酸は医療現場でセレン供給源として利用されているが,速やかに赤血球に取り込まれ,グルタチオンセレノトリスルフィド(GSSeSG)を形成する。著者らのこれまでの研究により,GSSeSGへ還元されたセレンの輸送には遊離チオール含有タンパクとのチオール交換反応が関与していることを報告している。本研究ではGSSeSGのモデル化合物であるペニシラミンセレノトリスルフィド(PenSSeSPen)がラット脊髄から摘出した脊髄後根神経節(DRG)細胞に取り込まれ,セレンタンパクの合成に利用されることが示されたことから,さらにPenSSeSPenとヒト血清アルブミン(HSA)とのチオール交換反応産物であるHSA-SSeSPenを合成し,神経細胞での利用を検討した。その結果,PenSSeSPen と同様にHSA-SSeSPen由来のセレンが神経細胞に取り込まれ,セレンタンパク合成に利用されていることが示唆された。このことは,神経細胞へのセレン輸送においてもタンパク質チオールとのチオール交換反応が寄与している可能性を示している。また,細胞へ取り込まれたセレンの細胞内分布を調べるため,PenSSeSPen およびHSA-SSeSPenの蛍光標識体の合成を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PenSSeSPenのDRG細胞への取り込みは,生体内チオールとのチオール交換による可能性が考えられるが,PenSSeSPenそのものがアミノ酸トランスポーターなどを介して取り込まれる可能性も否定できない。そこで,タンパク質チオールとのセレノトリスルフィドであるHSA-SSeSPenの取り込みを検討した結果,PenSSeSPenと同等の結果を示した。HSAの蛍光標識体を用いた実験から,HSAはDRG細胞へ取り込まれていないと考えられるため,-SeSPen部位のみがチオール交換によりDRG細胞内へ取り込まれたことが示唆された。これまでに合成したfluorescamine標識体は,水溶液中での安定性が低く分離精製が困難であったため,新たにfluorescein標識体を合成し,逆相クロマトグラフィによる分離精製を行うことができた。細胞への添加を行ったところ,fluorescein標識体の安定性は高いものの,標識後の分子量増加が大きいために,細胞への取り込みに影響したことが考えられた。ラット脳細胞質とPenSSeSPenとの反応後,質量分析法で検出されたセレン結合性を有すると思われるタンパクを同定するため,脳細胞質溶解液の分離精製を行った。脳細胞質溶液を分画分子量範囲の異なる限外ろ過膜で順次分離後,得られた各画分について分離を確認したところ,タンパク量の変化は見られたものの,高分子と低分子の画分で電気泳動によるバンドの差は確認できなかった。限外ろ過のみによる精製が不十分であると考えられたため,さらにゲル浸透クロマトグラフィにより精製した。得られた複数の画分について,PenSSeSPenとの反応性を検討した結果,いくつかのピークの変化が観察された。細胞質溶解液の分離精製過程で,反応性のチオールが酸化された可能性が考えられたため,還元剤による処理後,さらに反応性を検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
①セレン結合タンパクの探索:限外ろ過,ゲル浸透クロマトグラフィ等により粗精製した脳細胞質溶液を,さらに二次元電気泳動により分離し,MS/MSによるセレン結合タンパクの同定を試みる。また,引き続き膜画分に含まれるタンパクについても同様に検討する。 ②脊髄後根神経節(DRG)細胞のセレン利用能評価:HSA-SSeSPen由来セレンのDRG細胞への取り込み挙動について,添加セレン濃度,培養時間の変化による影響を検討する。また,セレノトリスルフィドを形成する遊離チオール含有タンパクとして,アルブミン以外のタンパクも検討する。種々のセレン化合物の蛍光標識について,より低分子の蛍光団を用いた標識を検討する。また,蛍光標識セレン化合物細胞添加時の濃度および培養時間についても比較し,セレン取り込み過程に関する詳細な検討を行う。 ③細胞種ごとのセレノトリスルフィド利用能の検討:神経細胞に特徴的なセレン代謝経路を明らかにするため,他の培養細胞との比較を行う。特に,セレン代謝において重要な臓器である肝臓由来細胞や,セレン吸収過程に関わりうる表皮系の細胞を用い,PenSSeSPenおよびHSA-SSeSPen由来セレンの利用,蛍光標識体の取り込みについて検討する。さらに,株化神経細胞についても検討し,初代培養であるDRG細胞との比較を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由 試薬や消耗品の価格変動や研究の進行状況により,残高が発生した。
次年度使用額の使用計画 次年度の試薬や消耗品購入に使用を予定している。
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