研究実績の概要 |
グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)などの抗酸化酵素の活性中心となるセレン(Se)は,血流量が多く酸素消費が活発である脳において特に重要な機能を担っている。しかし,脳内のSe代謝については不明な点も多い。我々のこれまでの研究により,セレノトリスルフィド(-S-Se-S-, STS)とチオール(-SH)タンパク質とのチオール交換反応が生体内のSeの輸送や代謝に重要であることを報告している。本研究でもSTS化合物を利用してSeの代謝に関わる脳由来タンパク質の探索を試みた。 本研究で用いたラット脊髄後根神経節細胞へ低分子および高分子のSTS化合物を添加した結果,いずれの化合物由来のSeも細胞へ取り込まれ,GPxの合成に利用されることが示され,神経細胞へのSe輸送においてもSTSとタンパク質チオールとのチオール交換反応が寄与している可能性が示唆された。脳のSe結合性タンパク質探索の手がかりを得るため,脳と同様にSeが重要な機能を果たしている心臓のSe結合タンパク質を探索した結果,ミオグロビン(Mb)が同定された。Mbは筋肉で酸素の保持や輸送に関与するタンパク質であるが,Seとの結合性については知られておらず,Mbの新たな機能としてSe代謝との関連性が示唆された。Seが神経細胞へ輸送されるためには,細胞膜を透過する必要があることから,細胞膜にもSe結合性タンパク質が存在するのではないかと推察し,ラット脳ホモジェネートから膜画分を分離した後,STS化合物処理と質量分析によりSe結合性タンパク質を探索した結果,分子量17000程度のチオール含有タンパク質が,Se結合性を示した。また,細胞へ取り込まれたSeの挙動を調べるため,低分子 および高分子STS化合物の蛍光標識体を合成した結果,それぞれの蛍光標識体は細胞培養条件下で70%以上安定に存在することを確認し,解析に用いることができた。
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