研究課題/領域番号 |
16K18923
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
富田 純子 愛知学院大学, 薬学部, 講師 (10454323)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 疫学解析 / ヘリコバクター・シネディ / CRISPR |
研究実績の概要 |
ヘリコバクター・シネディは、複数の医療施設で院内感染を引き起こしている。本菌種の感染源・感染経路は不明であるため、二次感染予防のために分子疫学的手法を確立する必要がある。平成28年度は、細菌ゲノム上に存在する反復配列であるCRISPR領域のスペーサー配列比較による疫学調査を行った。国内外で分離された菌株についてCRISPR領域の塩基配列を決定し、比較解析を行ったところ、スペーサーの分布から伝播経路の有用な情報を得ることができた。CRISPR領域は、外来性遺伝子侵入を記憶し、獲得免疫機構として機能するため、スペーサー配列から過去に攻撃を受けた外来遺伝子が特定された。また、獲得した外来遺伝子は生息環境を反映するため、これまでの分子疫学的手法では分からなかった菌株の変遷を詳細に辿ることが可能であった。本研究にて使用したCRISPR配列比較と、細菌の疫学解析において広く用いられているMultilocus sequence typing(MLST)法とを比較してみると、MLST法では識別できなかった遺伝子型の相違をCRISPR配列では分別可能であり、同一医療施設内におけるヘリコバクター・シネディの時期別の拡散過程を推測することができた。また、国内外での多型分布が明らかとなり、国内の医療施設間での遺伝子型の比較解析も行うことができた。本手法は、ヘリコバクター・シネディ以外の菌種にも応用が可能であるため、伝播経路や拡散規模を詳細に把握できる新規の疫学解析ツールとして医療に役立つデータを提示できるものであると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度はヘリコバクター・シネディのCRISPR領域の配列比較を行い、国内外の多型分布を明らかにし、これまで用いられてきた分子疫学的手法では把握できなかった、詳細な伝播過程を辿ることが可能な疫学解析法を確立した。 また、特異的プローブを用いた蛍光標識によるヘリコバクター・シネディの細胞侵入性についても観察できており、本研究は順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、ヘリコバクター・シネディ特異的遺伝子群の解析を中心に研究を進める。VI型分泌装置の構成タンパク質の発現を抑制したT6SS欠損株を作製して、マウス感染モデルと培養細胞を用いた解析により宿主への定着と炎症誘発について検討し、本菌種に特異的であるこの遺伝子群がどのような役割を果たしているかを解明する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は、疫学解析を中心に研究を進めたため、物品の購入が予定よりも少なかったこと、また、当初予定していた旅費を使用したかったため、次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、ヘリコバクター・シネディの特異的遺伝子群について機能を解析し、病原性と再発機構を明らかにするために、遺伝子工学用試薬やマウス飼育用品、細胞培養用試薬等の購入に使用する予定である。
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