研究課題/領域番号 |
16K18927
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
石井 雄二 国立医薬品食品衛生研究所, 病理部, 室長 (70544881)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | PP2A |
研究実績の概要 |
本研究では発がんイニシエーション期におけるPP2A不活性化の役割とその機序を明らかにすることを目的として、平成28年度はエストラゴール(ES)と同じ骨格を有するフェニルプロぺノイド化学物(PPCs)を用いてPP2Aのリン酸化ならびに肝細胞の増殖活性について構造活性相関を検討した。その結果、これらの変化は弱いながらもメチルオイゲノール(MEG)及びオイゲノール(EG)でも認められ、フェニルプロぺノイド化学物(PPCs)に共通した変化である可能性を見出した。更にDNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析により、これらの投与によって共通して変動する遺伝子を明らかにした。平成29年度はPPCsの投与によって共通して変動した71の遺伝子(増加39、減少32)の中から、PP2Aのリン酸化に関連する遺伝子を精査した。しかしながら、これらの遺伝子の中にPP2Aのリン酸化に寄与する分子をコードする遺伝子は見つからず、原因分子の特定には至らなかった。次に、PP2Aの不活性化が遺伝子突然変異に及ぼす影響を検討するため、PP2A不活性化剤として知られるマイクロシスチンの用量設定試験を実施した。F344ラットにマイクロシスチンを10、20又は40 mg/kgの用量で週3回、2週間腹腔内投与した後、肝臓を採取した。病理組織学的検索の結果、肝臓において投与に起因した組織学的変化はみられなかった。また、PCNAの免疫組織化学染色法を用いた検索により肝細胞の増殖活性を検索した結果、マイクロシスチン投与に起因した変化は見られず、マイクロシスチンのPP2A阻害作用を示す用量は明らかにならなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度は当初の予定通り、PP2A阻害作用を示すマイクロシスチンの投与量を明らかにするための用量設定試験を実施したものの、過去の文献を基に設定したマイクロシスチンの用量では十分なPP2A阻害作用を発現しないことが明らかになった。そのため、より高用量更での用量設定試験の実施が必要となったが、研究代表者が所属する国立医薬品食品衛生研究所の移転に伴い、長期間にわたり動物実験施設の使用ができず再度の用量設定試験が実施できなかったため、研究期間を一年延長し、平成30年度にマイクロシスチンの用量設定試験及び遺伝毒性物質との複合影響について検討することとした。なお、当初の研究計画にある実施内容に変更の必要はない。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に実施した複数のPPCsを用いたPP2Aのリン酸化に寄与する分子の検索では、PPCs投与群全てでPCNAによる細胞増殖活性の上昇が認められたのに対し、細胞周期調節因子の遺伝子レベルの発現増加はES投与群のみでしか認められなかったことから、異なる細胞増殖のマーカーとしてki67の免疫組織化学染色法による評価を実施する。平成29年度に実施したマイクロシスチンの用量設定試験では、F344ラットに0、10、20又は40 mg/kgの用量で週3回2週間腹腔内投与したものの、肝臓における変化はみられなかった。マイクロシスチンのPP2A阻害作用を示す用量を明らかにするため、用量を0、50、75及び100 mg/kgとし、週3回、2週間腹腔内投与する。肝臓の病理組織学的検索ならびに細胞増殖活性の評価を実施する。これらの結果から、PP2A阻害作用が認められた用量のマイクロシスチンと単剤では変異を起こさない低用量のESをレポーター遺伝子導入動物であるgpt deltaラットに併用投与し、肝臓におけるDNA付加体及びin vivo変異原性の検索を行うことで、PP2Aの不活性化が化学物質の突然変異誘発性に及ぼす影響を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)平成29年度にマイクロシスチンのPP2A阻害作用について、過去の文献を基にラットを用いた予備試験を実施したが、検討したマイクロシスチンの用量では十分なPP2A阻害作用を発現しないことが明らかになった。より高用量での用量設定試験の実施が必要であったが、研究代表者が所属する国立医薬品食品衛生研究所の移転に伴い、長期間にわたり動物実験施設の使用ができず再試験が実施できなかったことから研究事業の延長を申請した。平成30年度はこれらの試験を実施するため、次年度使用額が生じた。 (使用計画)実験動物ならびに実験用の試薬及び消耗品の購入費に充てる。
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