本研究では発がんイニシエーション期におけるPP2A不活性化の役割とその機序を明らかにすることを目的として、平成28年度はエストラゴール(ES)と同じ骨格を有するフェニルプロぺノイド化学物(PPCs)を用いてPP2Aのリン酸化ならびに肝細胞の増殖活性について構造活性相関を検討した。その結果、これらの変化は弱いながらもメチルオイゲノール(MEG)及びオイゲノール(EG)でも認められ、フェニルプロぺノイド化学物(PPCs)に共通した変化である可能性を見出した。更にDNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析により、これらの投与によって共通して変動する遺伝子を明らかにした。平成29年度はPPCsの投与によって共通して変動した71の遺伝子(増加39、減少32)の中から、PP2Aのリン酸化に関連する遺伝子を精査した。平成30年度はPP2A阻害剤が突然変異誘発性に及ぼす影響を検討するため、F344 gpt deltaラットにESを30又は300 mg/kg/dayの用量で28日間強制経口投与するのと同時に、PP2A阻害剤として知られるマイクロシスチン(MC)を50 microg/kgの用量で週3回、腹腔内投与した。病理組織学的検索の結果、MC投与群では肝細胞の分裂像に加えて、アポトーシス像及び線維化が認められた。gpt assayにより肝臓における突然変異頻度を検索した結果、ES 300 mg/kg投与群において突然変異頻度は有意に上昇した。一方、MC併用投与による影響はES 30 mg/kg投与群、300 mg/kg投与群ともに認められず、本実験条件下においてESの突然変異誘発性におけるPP2A阻害の影響は明らかにならなかった。今後、PP2A活性化剤を用いた検討が必要と考えられた。
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