妊娠時のてんかん治療では、発作が母児へ及ぼすリスクと、抗てんかん薬による児へのリスクの両方を考慮する必要がある。本研究は、胎盤における抗てんかん薬輸送に寄与するトランスポータを明らかにし、臨床的に考え得る問題点に関して多角的に検討することにより、胎児リスクの低減に繋がる情報を得ることを目的とした。 昨年度までに、各種抗てんかん薬 (ガバペンチン、ラモトリギン、トピラマート、レベチラセタム、バルプロ酸) の胎盤由来細胞における輸送機構について検討を行った。その結果、ガバペンチン、ラモトリギン、およびバルプロ酸の細胞への取り込みにトランスポータが関与する可能性を示した。また、ガバペンチンの輸送にはL-type amino acid transporter 1 (LAT1) が寄与することを示した。さらに、妊娠時に重要な栄養素である葉酸に着目し、抗てんかん薬が葉酸輸送に及ぼす影響について評価した。種々の抗てんかん薬は、胎盤由来細胞における葉酸輸送活性に対して直接的な影響を及ぼさないものの、バルプロ酸の長期的曝露は葉酸輸送量を変動させる可能性を明らかにした。 当該年度は、バルプロ酸の輸送はプロトン依存性を示すものの、予測されるmonocarboxylate transporter (MCT) 1および4 の関与は低いことを示した。寄与する因子の同定には至らなかったため、更なる検討を行う必要がある。また、バルプロ酸曝露による葉酸輸送能の変化には、proton-coupled folate transporter (PCFT) や folate receptor α (FRα) 等の遺伝子発現変動が関与することを明らかにした。 今後も更なる研究を進めるとともに、in vivoの検討やトランスポータ活性変動因子に関する検討を行うことで、抗てんかん薬のリスクの低減に向けた方策の構築に繋げたい。
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