研究課題/領域番号 |
16K18932
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
青木 重樹 千葉大学, 大学院薬学研究院, 助教 (30728366)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | HLA / 特異体質 / 薬物毒性 / ペプチドレパートリー変化 / ケラチノサイト |
研究実績の概要 |
HLAの関与する特異体質薬物毒性をin vitroの系で再現するため、アバカビルとその服用による過敏症発症の原因多型であるHLA-B*57:01の組合せに焦点を当て、29年度は皮疹発症が特異体質性に起こる機序について検討した。 HLA-B*57:01遺伝子または陰性対照のHLA-B*57:03遺伝子を導入した新生児マウスよりケラチノサイトを単離し、アバカビルを曝露したところ、HLA-B*57:01遺伝子を持つケラチノサイトにおいてのみERストレスやMAPKシグナルの活性化などの応答を示すことが見出された。また、このHLA多型特異的な自然免疫応答が、獲得免疫にかかわる樹状細胞に対する活性化作用も有していることが明らかとなった。これら一連の反応はHLA遺伝子導入マウスin vivoにおいても確認することができ、HLA多型特異的な薬物性の皮疹発症は、ケラチノサイトがHLA多型特異的な自然免疫応答を示すことが原因であると考えられた。 28年度の検討から、HLA-B*57:01分子にアバカビルが結合することで、提示されるペプチドのレパートリーが変化することが分かっている。HLA-B*57:01遺伝子を持つケラチノサイトにおいてもアバカビルの曝露を受けることによって提示されるペプチドのレパートリーが変化し、これら一連のイベントの過程でケラチノサイト内にストレス応答が惹起していたことが示唆された。 よって、HLA分子に原因となる薬物やそのハプテン等が結合することが、提示ペプチドレパートリーの変化や異常抗原の提示となり、細胞傷害性T細胞に対する攻撃の対象となることから、HLA分子複合体の構造変化を予測できる方法論を構築することで、HLAの関与する特異体質薬物毒性の回避に繋がるものと強く期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度は、培養細胞株であるHeLa細胞を用いて、HLA分子に原因薬物が結合することで、提示されるペプチドのレパートリーが変化することの評価に成功した。29年度は、マウス由来の初代培養ケラチノサイトを用いて、原因となる薬物を曝露することでHLA多型特異的な免疫応答を示すことを明らかとした。今後、毒性の発現を予測する方法論の構築をin vitro、in silicoの観点から行うが、そのベースがこれまでの研究から確立したものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
28年度は静的なin silicoドッキングシミュレーションによってHLAと薬物の相互作用の再現を試みた。しかし、ER内で合成中のHLA分子と曝露された薬物が結合すると考えられることから、この静的な手法のみではなく、動的な計算によって予測することが前向きな毒性予測としては望ましいと考える。実際に動的な分子動力学(MD)計算を行う設備は整えており、30年度は計算時間ごとの複合体のエネルギー推移をモニターし、原因薬物が存在することでHLA分子複合体の構造が安定化するのか否かを評価する。 また、HLA分子複合体の構造変化をファージディスプレイ法を用いて予測する方法論の構築も引き続き行う。当初は細胞ベースでスクリーニングを行うことを試みたが、バックグラウンドが高すぎるなどの問題が生じたため、ネガティブセレクションやポジティブセレクションの方法の最適化を図った。30年度は、改良したスクリーニング法をもとに、HLAと薬物の複合体に対して特異的に結合するファージクローンの取得を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
29年度はファージディスプレイ法を用いたスクリーニングを実施し、そこから得られたファージクローンのシーケンシングや構造解析等に予算を充てる予定であったが、スクリーニングを行うために必要な基盤構築を優先的に行っていたため、これらは30年度に実施することとなった。29年度の予備的な検討からスクリーニング系の最適化を行ったため、研究遂行上の遅れはないものと考えている。
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