研究課題/領域番号 |
16K18942
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
佐藤 大介 鳥取大学, 染色体工学研究センター, プロジェクト研究員 (40734992)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 薬物代謝酵素 / 代謝酵素誘導 / 染色体工学 / 薬物動態 / 発光モデル / HPS / ハイスループットスクリーニング / CYP |
研究実績の概要 |
薬物動態の予測には酵素誘導による代謝酵素量変動の正確な把握が不可欠であり、医薬品開発の段階で検討必須の項目となる。現在、薬物代謝酵素誘導の経時的評価システムとしてレポーター技術を導入したモデル開発が行われているが、後述する従来のベクター技術の問題点から作製が困難となっている。代表者のグループでは、これまでに長大な遺伝子を導入することが可能な人工染色体ベクター技術を開発し、ヒト化薬物代謝酵素保持マウスの開発に成功した。本研究はその技術を応用し、長大なヒト薬物代謝酵素遺伝子調節領域下流に発光遺伝子を置換することで、従来困難であった複数の薬物代謝酵素誘導を経時的モニター可能な評価モデルの開発を目的とする。具体的な開発の第一段階として、医薬品の50%以上の代謝に関与する、ヒトで最も主要な代謝酵素遺伝子CYP3A4翻訳領域をSLG (緑発光) 遺伝子に置換したベクターを作成する。また同様に、CYP1A2翻訳領域をSLR (赤発光) 遺伝子、 CYP 2B6翻訳領域をSLO (橙発光) 遺伝子に置換する。本研究で使用する発光タンパク質を強制発現した遺伝子改変マウスは、その体内にて安定にそれらタンパク質発現を維持することを、開発者である産総研との共同研究の上、確認済みである。将来的には、薬物応答核内受容体であるPXR、CAR、AhRヒト化マウスとの交配による人工染色体への移入も視野に入れ、本検討ではそのための人工染色体保持個体の作製および機能評価を目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度は、3つのCYP分子種(CYP1A2, CYP2B6, CYP3A4)をSLR (赤発光)、SLO (橙発光)、SLG (緑発光) 遺伝子に置換したベクターの作成を試みた。各遺伝子群のプロモーター領域は論文を参考にし、CYP1A2では上流域23kbp、CYP2B6では上流域20kbp、CYP3A4では上流域10kbpを有する人工染色体搭載のための導入ベクターを作製した。さらに今年度では、先行して上記CYP1A2ベクターとCre発現ベクターを人工染色体保持CHO細胞へ一過性に導入することで、人工染色体ベクター上に目的遺伝子を搭載したクローンを取得した。取得したクローンはPCR法、FISH法により選別し、合計4クローンの目的配列を有する人工染色体ベクターを作製した。さらに、目的人工染色体が細胞内にて機能的に働くことを確認するためにヒト肝細胞癌由来細胞株であるHepG2細胞へと導入した。導入の方法は微小核細胞融合法を用いた。前記方法にて処理した細胞は人工染色体上に搭載したネオマイシン耐性遺伝子およびGFP蛍光遺伝子を利用し、G418薬剤耐性/GFP+株を選別し、現在までに合計8クローンを取得した。取得したクローンは、目的配列を有することを確認するためゲノムPCRを行った結果、4クローンにおいてポジティブであった。また、その4クローンについて遺伝子発現解析を行った結果、SLRの遺伝子発現が認められたことから、導入したプロモーター領域が細胞内のおいて機能的に働くことが認められた。
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今後の研究の推進方策 |
1) 薬物動態解析と機能評価。平成28年度に作製したHepG2細胞では通常培養下にて遺伝子発現が認められた。そこで、作製したプロモーターの機能をさらに詳細に解析するために論文等で報告される誘導剤を利用し、遺伝子発現変化に及ぼす影響を検討する。さらにこれら遺伝子変化を発光活性にて評価する。 2)代謝酵素発光モニタリング用人工染色体ベクターをマウスES細胞へ移入。CHO細胞から目的遺伝子搭載人工染色体を微小核細胞融合法により、マウスES細胞に導入し、目的の人工染色体が導入されたクローンを薬剤選別しスクリーニングする。FISH解析を行い、正常核型に加えて人工染色体ベクターが1コピー独立して保持されている株を選別する。長期培養を行い、人工染色体ベクターのマウスES 細胞における安定性を確認する。 3) ES細胞から肝細胞への分化誘導による人工染色体機能評価。ES細胞への導入後に代表者が以前行った多能性幹細胞から肝細胞へのin vitro誘導法(Satoh et al. Genes to Cells, 2013)を用いて、肝細胞分化後の発光ベクターの機能確認を行う。評価方法は、1)にて行った方法と同様である。 <本研究を遂行する上での具体的な工夫> 本研究では複数種類のインテグレースと人工染色体ベクターを組み合わせたmulti-integrase技術を用いる。この技術は宿主細胞内にて導入した人工染色体に何度も遺伝子改変することが可能であり、継続的に改良していくことができる。これにより、細胞への人工染色体ベクターを導入後、評価に必要な遺伝子が追加で見出されたとしても、作業を途中の工程から効率的に進めることが可能であり、研究にかかるコストおよび時間を大幅に短縮できる。このことは、今後の薬物動態ガイダンスの改定にも柔軟に対応することが可能である。
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