研究課題/領域番号 |
16K18944
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
小山 敏広 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 助教 (60595106)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 血液凝固系 / 生活習慣病 / 候補化合物 |
研究実績の概要 |
心房細動患者の多くは生活習慣病(高血圧,糖尿病,脂質異常症)を合併しており,心原性塞栓症を予防するための抗凝固薬物療法と生活習慣病に対する薬物療法を並行して行っている.しかしながら,生活習慣病に伴う治療が心原性塞栓症や出血イベントに及ぼす影響についてはこれまで明らかにされていない.本研究の実績として,生活習慣病を合併する心房細動患者における塞栓症および出血など血液凝固系の異常にとなうイベントをリスクとして,これらのリスクに生活習慣病治療薬が及ぼす影響を明らかにした.まず,出血リスクについては以下の薬剤がリスクを低減する可能性を見出した.(尿酸血症治療薬のアロプリノール(オッズ比0.81),血圧降下剤のロサルタン(オッズ比0.60),脂質異常治療薬のピタバスタチン(オッズ比0.67),血糖降下薬のグリメピリド(オッズ比0.83)).さらに,心原性塞栓症リスクについては,さらに以下のような生活習慣病治療薬がそのリスクを低減する可能性を見出した(尿酸血症治療薬のアロプリノール(オッズ比0.79),血糖降下薬のメトホルミン(オッズ比0.89),血圧降下薬のロサルタンカリウム(オッズ比0.80),血圧降下薬のオルメサルタン(オッズ比0.82)).これらの結果から,生活習慣病における薬物治療薬がそれぞれの効果に加えて副次的に塞栓症や出血のリスクを低下させる可能性が示唆された. 本研究によって,特に,心房細動患者における心血管および脳血管イベントを低減させる効果が高尿酸血症治療薬であるアロプリノールにおいて強く示唆された.今後の研究においてこれらのヒトでの薬効のメカニズムを動物モデルにおいて明らかにしていく予定であり,動物モデルにおける凝固系への影響に加え,血管や酸化ストレスなどを介している可能性についても明らかにしていくように当初の計画に加えてさらなる研究を重ねていきたい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在,生活習慣病と心房細動を合併した患者における血液凝固系に関連する塞栓症イベントおよび出血イベントのリスクに及ぼす既存の生活習慣病治療薬の効果を明らかにしてきた.血圧降下薬のロサルタンカリウムウや,オルメサルタンなどのアンジオテンシン受容体阻害薬や,血糖降下薬のグリメピリド,メトホルミン,そして脂質異常症治療薬であるピタバスタチン,さらに高尿酸血症治療薬のアロプリノールにおいて,塞栓及び出血リスクを低減させる可能性が示唆された.これらの薬剤については,血液凝固能への影響がこれまで知られていない既存医薬品であり,既存医薬品の新規薬効につながる可能性が示唆されている.中でも特に,アロプリノールは統計的に強くその効果が示唆され,動物モデルおよび細胞実験において血液凝固系(活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT),プロトロンビン時間(PT),トロンボテスト(TT))に加え,生活習慣病の生化学指標として脂質系(HDL,LDL,トータルコレステロール),血糖系(血糖値,ヘモグロビンA1C),炎症系(C反応性タンパク)について評価することで機序解明につながることが明らかとなった.さらに,凝固系のみならず,酸化ストレスや血管の線維化など多様な機能評価が必要となる可能性を示唆した.したがって,平成30年度ではこれらの薬剤について生活習慣病モデルにおける評価を血液凝固系のみだけでなく血管組織への効果の可能性も考慮し多角的に実施する.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は生活習慣病の既存治療薬が及ぼす血栓塞栓症や出血に及ぼす影響のメカニズムを動物モデルおよび細胞モデルにおいて明らかにする事を目的とする.薬効評価は基礎データが十分に確立されている動物モデルおいて実施するため円滑に実施できると想定している.さらに,これまでに実施してきた生活習慣病が及ぼす血液凝固能への影響評価を生活習慣病モデル動物において評価し,それらを生理的な血液凝固能に及ぼす影響を明らかにするため正常動物とも比較することにより評価する.また,特に生活習慣病治療薬の一つであるアロプリノールは,血栓症および出血イベントの両方で効果が示唆されていることから,単純に血液凝固系の正常化に対する影響のみを評価するだけでなく,尿酸値変動の影響や,酸化ストレスやそれに伴う心血管および脳血管の線維化への影響が血管の弾性低下との関連性も考慮されるべきであると考えられる.したがって,これまでの血液凝固能の変動に影響を及ぼす生化学的変化を明らかにするにくわえて,これらの指標を動物モデルや細胞モデルも併せて検討を加えていく必要があると考えている.さらに,計画が早く進んだ場合は,さらに多くの候補化合物(血圧降下薬,脂質異常症治療薬,血糖降下薬など)を対象に生活習慣病治療に用いる既存の併用薬が心房細動における抗凝固療法に及ぼす影響を詳細に明らかにすることも実施する.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画において当初購入予定であった大型機器を購入する必要がなくなったことと、検討を進めるうえで当初より少ない研究費で検討を進めることが可能となったため。
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