研究課題/領域番号 |
16K18945
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
川見 昌史 広島大学, 医歯薬保健学研究院(薬), 助教 (20725775)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 薬学 / 上皮間葉転換 / 薬剤性肺障害 / 肺胞上皮細胞 / メトトレキサート / 葉酸 |
研究実績の概要 |
メトトレキサート(MTX)による肺障害は、他の副作用と異なり、MTXの薬効に拮抗する葉酸製剤の経口投与などでは効果が得られないとされてきた。本研究では、葉酸がMTXによる肺障害に対して効果を示さないのではなく、従来の投与法では肺への葉酸の移行が不十分であるとの考えの基、MTXによる肺障害に対する葉酸の影響に関する解析を行うこと、および経肺投与と従来の投与法による葉酸の影響を比較検討することを目的とする。 平成28年度では、MTXによる肺障害に関与が深いとされている肺胞上皮細胞から筋線維芽細胞への形質転換(上皮間葉転換(EMT))に対する葉酸の効果について詳細な検討を行い、以下の知見を得た。 1) MTXの薬効標的であるdihydro folate reductase (DHFR)によって産生されるtetrahydro folate (THF)は、葉酸と比べて低濃度でMTXによるEMT様の形質変化を抑制した。従って、MTXによるEMTには、MTXの薬効でもあるDHFRの酵素活性が関与している可能性が考えられた。 2) ヒト由来A549細胞にMTXを処置した後の培養上清からMTXを除去して得たconditioned medium (CM)が、A549細胞のEMT様の形質変化を誘発した。一方、MTXと葉酸を共存処置して調製したconditioned medium (CMF)では、EMT様変化は認められなかった。従って、葉酸はMTXによる何らかの因子の分泌を抑制することによって、MTX誘発性EMTを抑制している可能性が示唆された。 3) マイクロアレイによる解析によって、MTXによって発現が顕著に変動し、かつ葉酸の共存によってその発現変動が抑制された遺伝子群についてPathway解析を行い、細胞周期に関する遺伝子が多いことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画の通り、MTXおよび葉酸の共存処置におけるDHFRの機能に関するデータが得られつつあり、おおむね順調に進展している。さらに、MTXによる分泌因子への抑制効果や細胞周期に関する影響など、葉酸の抑制メカニズムに関する多くの知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究において、葉酸が、DHFR活性に加えて、サイトカインの分泌、あるいは細胞周期に関連する因子に対して影響する可能性が示唆されたので、今後はその最も上流に位置すると考えられるDHFRのknockdownなど、葉酸代謝サイクルに関連する因子の解析を優先的に進めていく予定である。同時に、当初の計画の通り、MTXによる肺障害モデルラットの作出法を確立し、肺組織におけるEMT関連タンパク質の評価および肺障害の指標となるヒドロキシプロリンの定量を行っていく予定である。さらに、肺障害モデルラットの肺におけるMTX、葉酸およびTHFなどの還元葉酸の定量も行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
効率的に研究を進めるため、DHFR活性の評価法について、ジヒドロ葉酸の蛍光の消失を指標にする手法ではなく、DHFRによって代謝されたTHFを用いることによって間接的にDHFR活性を評価する手法に切り替えた点で当初よりも使用金額が減少した。また、進捗状況に記載した通り、MTX誘発性EMTに対する葉酸の抑制効果におけるDHFRの関与に関するデータは得られつつあり、研究全体の進捗としては問題ないと考えるが、DHFRのknockdownの検討には至っていなかったために生じた金額である。
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次年度使用額の使用計画 |
MTX誘発性肺障害に対する葉酸の抑制効果として、DHFRのみならず培養上清に分泌される因子や細胞周期関連因子が関与する可能性が示唆されたため、DHFRのknockdownによる影響に関する検討を優先するが、使用金額の範囲内で分泌因子や細胞周期に関する検討も行う予定である。 翌年度分の使用金額、すなわちMTXによる肺障害モデルラットの作出のための使用金額は当初の予定通り進める予定である。
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