これまで肺障害と関連が深い上皮間葉転換(EMT)に焦点を当て、メトトレキサート(MTX)によるEMTに対して葉酸が顕著な抑制効果を有し、その防御効果にはジヒドロ葉酸レダクターゼによる還元作用が重要である可能性を示すとともに、MTXによる肺障害モデルの作製のため、まずは多くの事例があるブレオマイシン(BLM)による肺障害モデルマウスの作出に成功するなどの成果を得てきた。 平成30年度では、葉酸のMTX誘発性EMTに対する防御機構のより詳細な検討を行うとともに、最終的な目標であるMTX誘発性肺障害に対する葉酸の経肺投与の影響に関する検討を行い、以下の知見を得た。 1)前年度で、MTX誘発性EMTに葉酸代謝経路以外の因子の寄与が考えられたため、葉酸の共存によって変動した遺伝子群をマイクロアレイによって解析し、バイオインフォマティクスを活用し、葉酸のEMT防御能には細胞周期が関与する可能性が明らかになった。そこで、セルソーターや細胞周期同調試薬などを用いた実験系を構築し、MTXによるEMTと細胞周期の停止が深く関与することを見出した。 2)ddyマウスにMTXを5日間腹腔内投与した後、7日目に肺を単離し、ホモジネートすることによってサンプルを得た。当該サンプルにおいて、炎症の指標であるマロンジアルデヒド(MDA)の産生が亢進していることを見出した。さらに、投与初日に葉酸を経肺投与することによって、MDAの産生量が抑制される傾向が認められた。従って、葉酸の経肺投与は、MTXによる肺における炎症を抑制できる投与法である可能性が示唆された。
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