免疫抑制薬タクロリムスの体内動態には大きな個人差があり、薬物代謝酵素CYP3A5の遺伝子多型がその個人差を制御する一要因であることが解明され、用量調節の個別化に有用な情報となっている。一方、タクロリムスに対する感受性にも個人差が指摘されており、目標血中濃度の個別化など薬力学的な個人差の克服が求められている。 本研究では、より質の高い術後免疫抑制療法の確立を目指し、C型肝炎ウイルスによる肝臓疾患を原疾患とする肝移植患者を対象に拒絶反応発現の個人差に関わる候補因子として新たに見出されたいくつかの分子(Immunomodulatory factors of hepatitis C reaction and rejection :IFR)に注目した。肝移植におけるドナー肝の体質(IFR遺伝子発現の差異)がレシピエントに及ぼす作用を解析することで、IFRの発現量の差や種類の差が肝移植後の拒絶反応予測のバイオマーカーとして利用可能か検討することを目的とした。 肝移植における急性拒絶反応には細胞障害性T細胞(CTL)とNK細胞が中心的な役割を果たしている。NK様培養細胞株KHYG-1と白血病細胞株k562を利用したkilling assay系を利用して、組み替えIFRを添加することにより、KHYG-1細胞の細胞障害活性が低下するかどうかを指標にIFRの細胞障害活性への影響を評価した。IFR存在下ではKHYG-1細胞の細胞障害活性は低下し、k562細胞の細胞死が回避される傾向にあることを確認した。今後はIFRによる細胞内シグナル伝達経路に焦点をあてて解析を行い、IFR の作用メカニズムについて明らかにする予定である。
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