体内に存在するエストロゲンの多くは血液中に硫酸抱合体のかたちで存在する。その硫酸抱合エストロゲンは、細胞膜に発現するorganic anion transporters やorganic anion transporting polypeptideによって細胞内に輸送される。しかし、硫酸抱合エストロゲン自体はエストロゲンレセプターに結合できないため、各臓器で生理活性を示すには細胞内で硫酸抱合を外す必要がある。その硫酸抱合を外すのがsteroid sulfatase (STS)と呼ばれるスルファターゼであるが、STSは小胞体内に局在しているため、その生理活性の発現には硫酸抱合体を小胞体内に運ぶ必要がある。その役割を担っているのが、今回同定に成功したsteroid sulfate transporter 1 (SST1)であると考えられる。よって、このSST1は、体内のエストロゲン量を調節し、生理反応を厳密に制御していると考えられる。 エストロゲンに深く関わる病態としては、乳がんが挙げられる。主に乳がんはエストロゲンの過剰産生によりエストロゲンレセプターに結合する量が異常になり、がん化する。このことから、その薬物治療法として、エストロゲンレセプターのアンタゴニストであるタモキシフェンが広く用いられている。また最近ではエストロゲン産生酵素阻害薬であるアナストロゾールやレトロゾール、エキセメスタンが用いられ生存率の上昇に大きく寄与している。その他にも、STS阻害薬が、乳がんに対するターゲット分子の候補として挙げられている。このことから、SST1は乳がんに対する抗がんターゲットになりうる重要なトランスポーターであることが考えられる。
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