今年度は、前年度までに検討してきた光刺激応答性リポソームおよび金ナノクラスターの調製技術を活かし、光刺激応答性リポソームに関する研究を引き続き行った。これまでに調製した金ナノクラスターは非常に小さいため(数 nmほど)、リポソーム内部の水相部分に充填することができる。内部に抗がん剤などの薬物を同時に封入することにより、リポソームからの薬物放出挙動を金ナノクラスターの放出(蛍光)を定量することによってより、モニタリングできる可能性が示唆された。また、リポソーム表面に金ナノクラスターを吸着させることでリポソームの生体内分布・細胞内分布を理解するための手段に応用することが期待できた。抗がん剤であるドキソルビシン以外の薬物についても検討を行った。リポソーム内に薬物を充填する場合、リポソーム膜の内外のpHやイオン勾配を利用して薬物を内部に導入させる方法(通称:リモートローディング法)を使うことにより、薬物を非常に高い効率で封入することができる。そのため、リモートローディング法が適用できる他の抗がん剤に着目して検討を行っている。また、最大限の治療効果を発揮するために必要な、リポソーム内に封入されている抗がん剤と光増感剤の含有量の比率についても基礎的検討を行った。光刺激応答性リポソームによるトリガーリリースに有用な光増感剤と抗がん剤による相加・相乗的な治療効果が期待できるため、今回提案した近赤外線レーザーと光刺激応答性リポソームによるがん治療戦略は有用な戦略であると思われることが示唆された。
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