1. 最終年度の成果 今年度は、ヒト母乳中5-HTの生理的変動に関する検討を行った。岩手医科大学附属病院で出産した健康授乳婦を対象に、母乳中の5-HT濃度が授乳前後で変化するのか、さらには、約1年の授乳期間にわたってどのように変動するのかを調べた。 授乳前後における母乳中の5-HT濃度の変動に関する検討では、11名の健康授乳婦を対象とした。母乳の採取は、出産後約3ヶ月目にあたる任意日に、授乳直前、授乳1~2時間後、次回授乳直前の連続3回行った。解析の結果、授乳前後における母乳中5-HT濃度に、大きな変動は認められなかった。また、授乳期間における母乳中5-HT濃度の変動に関する検討では、5名の健康授乳婦を対象とした。母乳の採取は、出産5~6日後(初乳)、1ケ月後、3ヶ月後、6ケ月後、離乳後、の計5回行った。解析の結果、5名の授乳婦全てにおいて、初乳の5-HT濃度が最も高く、授乳期間が進むにつれて、その濃度は減少することが明らかとなった。
2. 研究期間全体を通じて実施した研究成果 本研究では、まず始めに、乳腺上皮細胞における母乳産生制御に関与している5-HTの詳細な分子メカニズムについて検討を行った。その結果、5-HTは、5-HT7受容体を介して、脱リン酸化酵素の一つであるProtein- tyrosine phosphatase 1B(PTP1B)の発現誘導と、STAT5のリン酸化の阻害を引き起こし、β-カゼイン発現を抑制していることを明らかにした。また、陽イオン交換樹脂が充填された固相抽出カラムと、蛍光検出器を附属した高速液体クロマトグラフィーを用いることにより、ヒト母乳中の5-HTを効率良く抽出し、かつ再現性の高い分析方法を確立した。さらに、母乳中の5-HT濃度は、授乳前後の大きな変動は認められないが、その濃度は、成乳に比べて初乳で高いことを明らかにした。
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