研究課題/領域番号 |
16K18954
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
牛島 健太郎 自治医科大学, 医学部, 講師 (70448843)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 糖尿病 / 時計遺伝子 / 前駆脂肪細胞 / インスリン感受性 / 脂肪細胞分化 |
研究実績の概要 |
これまでに肥満糖尿病(ob/ob)マウスの精巣上体脂肪組織を用いた検討および培養細胞を用いた検討から、PAR-bZIP時計遺伝子は脂肪細胞分化の起点であると推測された。平成28年度ではまず、脂肪細胞の細胞径分布について正常マウスとob/obマウスで比較した結果、ob/obマウスにおける細胞径分布のピークは正常マウスよりも大であった。HDAC阻害薬であるMS275をob/obマウスに投与すると、前駆脂肪細胞におけるDBP発現量が増加し、脂肪細胞の細胞径分布のピークは小さい細胞径へシフトした。さらに、MS275は血中アディポネクチン濃度を上昇させob/obマウスのインスリン感受性を有意に改善した。これらの事から、MS275投与により前駆脂肪細胞内から脂肪細胞への分化が促進し、アディポネクチンを分泌する小型の脂肪細胞が増加したものと考えられた。前駆脂肪細胞内でDBPの発現調節を受ける脂肪細胞分化関連因子を探索したところ、Ppar-γのアイソフォームであるPppr-γ1svが候補に挙がった。ob/obマウスの前駆脂肪細胞におけるPppr-γ1sv mRNA発現量およびPpar-γ遺伝子の5'上流におけるDBP結合量は、いずれも正常マウスと比較して有意に小であった。MS275をob/obマウスに投与すると、前駆脂肪細胞内のPppr-γ1sv mRNA発現量およびDBP結合量は有意に上昇した。したがって、マウスの精巣上体脂肪組織内の前駆脂肪細胞において、PAR-bZIP時計遺伝子であるDBPはPppr-γ1svの転写を促進することにより脂肪細胞への分化を誘導することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスを用いた基礎研究において、PAR-bZIP時計遺伝子により誘導される脂肪細胞分化のレギュレーター因子を見出せるか否かが、平成28年度における大きな課題であった。当初は分子生物学的手法を用いた網羅的な解析を予定していたが、文献的調査において候補分子(Ppar-γ1sv)が見出された。さらに、この遺伝子の上流にはPAR-bZIP時計遺伝子の応答配列が存在しており、MS275をob/obマウスに投与することでこの配列へのDBP結合量が増加していることを明らかにすることができた。 臨床研究においては、自治医科大学医学部消化器外科学部門および人体病理学部門の協力の得て、ヒト内臓脂肪組織サンプルの収集を進めた。糖尿病および非糖尿病患者の大網脂肪をそれぞれ10例以上、腸間膜脂肪もそれぞれ10例以上を収集することができた。 以上より、基礎研究および臨床研究とも当初の計画通りに進行している。
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今後の研究の推進方策 |
【基礎研究】PAR-bZIP時計遺伝子であるDBPが、マウス前駆脂肪細胞内でPpar-γ1svの転写を促進し脂肪細胞分化を誘導することが示唆された。今後は、DBPの発現低下が脂肪細胞分化の抑制ならびにインスリン感受性の低下を引き起すか否か明らかにするための検討を行う。具体的には当初の計画通り、アロコラーゲンを主成分とするin vivoトランスフェクト試薬を用いて、脂肪組織にDBPの発現を低下させた遺伝子改変マウスの作製を試みる。 【臨床研究】収集した脂肪組織を用いて、糖尿病患者では非糖尿病患者よりもDbp遺伝子のヒストン修飾が低アセチル状態であるか否か、Dbp mRNA発現量が減少しているか否か検討し、動物モデルで認められた知見がヒトにおいても見出されることを明らかにする。中~長期的には、内臓脂肪におけるDbp発現異常の機序を明らかにし、その遺伝子発現異常を是正する化合物をライブラリーから探索することを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
PAR-bZIP時計遺伝子により制御される脂肪細胞分化調節因子を探索する研究として、マイクロアレイ等を用いた網羅的解析を行うことを計画しており、そのための試薬購入費を計上していた。また、これらの試薬代は比較的高額なものである。しかし平成28年度の研究において、この調節因子を文献的調査により見出すことができた。このように、網羅的解析を実施する必要がなくなったために次年度使用額が生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度に実施を予定している組織特異的遺伝子改変動物を作製には、高純度のsiRNAを大量に必要とする。効果的にかつ持続的な遺伝子発現抑制作用を得るためには、種々の条件(siRNA投与量、トランスフェクト試薬の種類、トランスフェクトのタイミング等)を十分に検討する必要がある。前述のとおり発生した次年度使用分を用いて詳細な条件検討を行う予定である。
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