研究課題/領域番号 |
16K18955
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
松本 准 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 助教 (60709012)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | CYP3A5 / CYP3A4 / 薬理遺伝学 / 薬物動態学 / 遺伝子多型 / CYP3A5*3 / C型肝炎 / Direct Acting Antivirals |
研究実績の概要 |
C型肝炎は、C型肝炎ウイルス(HCV)が感染することで発症するウイルス性肝炎である。近年、新規C型肝炎治療薬(DAAs、Direct Acting Antivirals)の発展が目覚ましく、続々と新しいDAAsが販売されている。特に2015年に販売されたソホスブビル/レジパスビル配合錠のHCV除去率はほぼ100%であり、かつ重篤な副作用も発生しないことが報告されており、現在HCVに対する第一選択薬となっている。しかしながらDAAsの薬価は極めて高く、一度治療を開始したDAAsを中断、また他のDAAsに変更する場合、医療財政に及ぼす影響は極めて大きい。そこで本研究では、各患者に最適なDAAsの提供を目指し、多くのDAAsの代謝に関わることが考えられるcytochrome P450(CYP)3Aサブファミリーのうち、CYP3A5の遺伝的多様性に着目し、DAAs選択・使用の個別適正化におけるCYP3A5遺伝情報の有用性を検証することを目的とした。 本年度は、昨年度行ったスクリーニングによりCYP3A5が代謝に関わる可能性が見出されたDAAsのうち、2016年に新しく販売されたヴィキラックス配合錠(オムビタスビル(OBV)/パリタプレビル(PTV)/リトナビル(RTV))において、特にCYP3Aが代謝に深く関わるPTVに着目し、CYP3A発現系ミクロソームおよびヒト肝ミクロソームを用いて、CYP3A4-3A5間の代謝活性の相違をin vitroで検討した。その結果、PTVの代謝にはCYP3A4の寄与が極めて重要であり、CYP3A5がPTVの代謝に及ぼす影響は小さいことが示唆された。現在は、ジメンシー配合錠(アスナプレビル(ASV)/ダクラタスビル(DCV)/ベクラブビル(BCV))に関して同様の検討を進めている。総じて、本研究は当初の計画通りに順調に進行している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に計画していた内容は、前年度に行ったスクリーニングによりCYP3A5が代謝に関わる可能性が見出されたDAAs、特にPTVにおいて、CYP3A4-3A5間の薬物代謝活性の相違をin vitroで検討することである。まず初めに、CYP3A4もしくは3A5発現系ミクロソームにおいてPTVの代謝を検討したところ、PTVの代謝はCYP3A4で顕著であり、また代謝物M2(ヒトにおけるPTVの主な代謝物)生成量に関してもCYP3A4で多かった。次に、ヒト肝におけるCYP3A4-3A5間の薬物代謝活性の相違を検討する上で、HAB研究機構より供与を受けたヒト肝組織のCYP3A5ジェノタイピングを行い、また調製した肝ミクロソームにおけるCYP3A4および3A5タンパク質発現量を決定した。その後、各肝ミクロソームをCYP3A5発現群および非発現群に分けて検討を行ったところ、両群でPTVの代謝およびM2生成量に差は認められなかった。さらに、CYP3A阻害剤であるケトコナゾールおよびCYP3A4特異的阻害剤であるCYP3CIDEを用いて検討を行ったところ、CYP3A5発現群および非発現群におけるPTVの代謝量およびM2生成量において顕著な差は認められなかった。一方で、各肝ミクロソームにおけるCYP3A4発現量とPTV代謝量およびM2生成量との間に有意な正の相関が認められ、CYP3A5で相関は認められなかったた。したがって、PTVの代謝においてはCYP3A4が極めて重要であり、CYP3A5の寄与は小さいことが示唆された。現在はASV、DCVおよびBCVにおいても同様の検討を進めており、LC/MS/MSを用いて医薬品インタビューフォーム上に記載されている各薬物の血中濃度域、また各薬物の代謝物の定量法を確立した。前年度確立したDAAs定量法に関しては論文を投稿し、受理された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の検討より、in vitroでのPTVの代謝においては、CYP3A4の寄与が大きく、一方でCYP3A5の寄与が極めて低いことが示唆された。また、OBVはCYP3Aで代謝を受けないことが医薬品インタビューフォーム上に記載されており、本研究におけるスクリーニングにおいても同様の結果が得られている。さらに、RTVはCYP3Aで代謝を受けることが知られているものの、PTVの血中濃度維持のためのブースターとして使用されていること、またRTVによるCYP3A4-3A5間の阻害活性はほぼ同様であることからも、実際にOBV/PTV/RTVを服用している患者の血液を用いた検討は今後行わないこととしたが、本年度得られたPTVにおけるCYP3A4-3A5間のin vitroでの代謝活性の相違に関しては、今後論文投稿を予定している。一方で、ASV、DCVおよびBCVは全てCYP3Aで代謝されることが知られており、本研究におけるスクリーニングにおいても、各薬物の代謝にはCYP3Aが関わることが示唆されている。そこで、今後はまずin vitroにおいてASV、DCVおよびBCVのCYP3A4-3A5間の代謝活性の相違を検討することとした。検討においてはCYP3A発現系ミクロソームおよび本年度調製したヒト肝ミクロソームを用い、また各薬物およびそれらの代謝物の定量も本年度に確立した方法で行う。in vitroにおける検討の結果、ASV、DCVおよびBCVの代謝においてCYP3A5が深く関わる可能性が見いだされた際には、ASV/DCV/BCVを実際に服用している患者から血液を拾得し、CYP3A5遺伝子型と各薬物血中濃度との関連性を検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた国内学会発表を、次年度に参加・発表することとした。
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