研究課題
食道癌に対する癌化学療法は生存率に大きく影響する重要な治療法である。しかしながら、その有効性には個人差が大きく、効果の認められない患者に対しては使用できる薬剤の選択肢が少ないことが問題である。本研究は、新規分子標的治療薬であるPoly (ADP-ribose) Polymerase (PARP) 阻害剤の食道癌化学療法への応用に向けた基礎的情報を蓄積することが目的である。これまでに、PARP阻害剤であるオラパリブによりヒト食道癌細胞株のシスプラチン、ドキソルビシン、イリノテカンの活性代謝物であるSN-38及びテモゾロミド感受性が相乗的に増強することを明らかにした。また、オラパリブは、これら抗癌剤による核内γH2AX蓄積量を相加的に増大させたことから、オラパリブと抗癌剤の併用によりDNA二本鎖損傷が増加することが示唆された。今年度は、このメカニズム解明を主な目的とし、DNA損傷修復経路に着目した検討を行った。その結果、古典的非相同末端結合 (c-NHEJ) において中心的な役割を持つタンパク質DNA依存性ポリメラーゼ (DNA-PKcs) 阻害剤であるNU7441は、オラパリブによる抗癌剤感受性増強作用に影響を及ぼさなかった。一方で、細胞のDNA二本鎖損傷部位に集積するタンパク質であるp53結合タンパク質1 (53BP1) をsiRNAを用いてノックダウンすることにより、オラパリブによる抗癌剤感受性の増強はほぼ完全に消失した。以上のことから、オラパリブによる抗癌剤感受性増強は、53BP1を介していることが示唆された。
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Anticancer Research
巻: 39 ページ: 1813-1820
10.21873/anticanres.13288.