本研究では、ヒト経口投与後の自己乳化型製剤の脂質消化挙動や製剤のperformance (過飽和溶解の有無を含めて)を精度よく予測するために、in vitroにおいて、ヒト消化管内環境 (消化管内水分への分散、脂質分解酵素であるリパーゼや胆汁酸成分との混和)を反映したシステムの構築を試み、in vivoとの相関性を示すことを目的としている。昨年度には、脂質として炭素鎖C16-C20程度の長鎖脂肪酸またはC8-C10程度の中鎖脂肪酸で構成される脂質を利用した自己乳化型製剤を調製し、油滴の粒子径が100 nm程度の熱力学的に安定なマイクロエマルションを形成することを確認している。さらに、難溶解性薬物であるジピリダモールおよびケトコナゾールを用いた場合、両薬物共に中鎖脂肪酸の脂質では、消化されやすいものの、溶液中で過飽和溶解を示し、in vivoラット経口投与試験においても中鎖脂肪酸の脂質製剤を投与した場合のみ、投与後初期の吸収速度が大きく、その分だけAUCが増大することを確認している。一方、長鎖脂肪酸の脂質製剤の場合では、このような過飽和溶解による吸収増大効果は観察されなかった。本年度では、さらに、他の化合物としてフェノフィブラートを用いて同様の検討を行った結果、ジピリダモールとケトコナゾールとは、真逆の結果が得られ、長鎖脂肪酸の脂質製剤の方が中鎖脂肪酸の製剤よりも高いin vivo吸収性示した。この要因として、化合物の物性により吸収改善に適した製剤が異なることが示唆された。今後、フェノフィブラートと同様の物性を示す化合物で検討を進めることで、化合物-製剤の適した組合せを明らかにしていく。
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