神経膠芽腫は非常に予後の悪い脳腫瘍であり、正常脳組織への浸潤傾向が強く、高頻度の再発が問題となる。したがって神経膠芽腫の浸潤を阻害する薬物療法の開発が早急に望まれる。そこで神経膠芽腫患者で繁用される抗がん剤テモゾロミドおよび抗てんかん薬バルプロ酸を用いて、両薬物が浸潤および遊走に及ぼす影響を4種の神経膠芽腫細胞で検討した。 平成28年度は、両薬物の併用によりT98G細胞では浸潤阻害作用が示された一方、U118細胞では浸潤・遊走が助長されること、その他の2細胞では顕著な影響がみられないことが示され、細胞種により薬物の影響が異なることを明らかにした。 平成29年度は作用機序を解明するために、異なる影響が示された2細胞を選択し、薬物併用処置後の細胞を抽出し、ウェスタンブロット法により浸潤・遊走関連因子の発現変動を検討した。基底膜分解作用を示すMMP-2および9、細胞の運動性に関わるRhoおよびRacは、いずれの細胞においても顕著な変動が認められなかった。また基底膜内での遊走や転移に関係する接着因子integrin(7種)を検出した結果、T98G細胞では発現が顕著に変動しなかったが、U118細胞では薬物併用処置によりintegrinβ4が増大し、α5が顕著に減少した。さらに、integrinの下流シグナルFAKは、T98G細胞では活性化したが、U118細胞では活性が低下することが明らかとなった。
本研究の結果より、両薬物の併用では神経膠芽腫の細胞種により浸潤・遊走を阻害する場合と増長する場合があることを明らかにした。その要因については、本検討では十分には明らかにされなかったが、integrinおよび下流シグナルが何らか影響を及ぼす可能性も示された。今後、更なる検討を重ねることで、これら既存薬の適正な使用法を提案し、浸潤・遊走抑制作用を含めたより良い薬物療法の開発につながる知見を提供できることが期待される。
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