研究課題
Programmed cell death 4 (Pdcd4) は、新規がん抑制遺伝子であり、その発現量が減少すると細胞のがん化・悪性化が生じることが報告されている。臨床研究でも予後の悪い腫瘍で Pdcd4 の発現量が減少していることが報告されている。しかし、Pdcd4 が細胞のがん化・悪性化を制御している直接的な標的および詳細な作用機序は明らかになっていない。さらに、正常細胞を用いて Pdcd4 の根本的な生理的機能を解明した報告はない。そこで本研究では、正常細胞および転移能力の低いがん細胞を用いて Pdcd4 ノックダウン細胞を作製し、その生理機能が Pdcd4 のノックダウンによりどのように変化するかを細胞のがん化および悪性度を指標として検討した。細胞は、Pdcd4 発現量が高く、転移能が低いマウスメラノーマ細胞である B16-F0 細胞および C57BL/6NCr マウス由来の線維芽細胞である C57BL/6-emb 細胞を使用した。その結果、Pdcd4 をノックダウンした細胞の増殖能および遊走能に有意な変化は認められなかったが、がん細胞の悪性度を示す一指標である浸潤能は有意に増加した。さらに、その作用機序として、細胞の浸潤能および運動能を制御している matrix metalloproteinase-2 (MMP-2) 分泌能および Twist1 タンパク質発現量の関与が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
肺への転移能の異なるマウスメラノーマ細胞を用いた検討により、がん細胞の Pdcd4 タンパク質発現量は、細胞の浸潤能と負の相関関係を示す可能性が示唆された。そこで、より詳細に検討するために、Pdcd4 発現量が高く、転移能が低いマウスメラノーマ細胞である B16-F0 細胞および C57BL/6NCr マウス由来の線維芽細胞である C57BL/6-emb 細胞に siPdcd4 を導入し、Pdcd4 ノックダウン細胞を作製した。siPdcd4 導入 24 時間後の Pdcd4 タンパク質発現量は、コントロールと比較して、95% 以上有意に減少した。従って、以下の実験では、同条件で作製した Pdcd4 ノックダウン細胞を用いた。In vitro にて、細胞の浸潤能を検討したところ、Pdcd4 ノックダウン細胞の浸潤能は、コントロール細胞と比較して有意に高値を示した。さらに、細胞の浸潤能および運動能に関与する MMP-2 分泌能および Twist1 タンパク質発現量も、Pdcd4 ノックダウン細胞においてコントロール細胞と比較して有意に高値を示した。一方、増殖能、遊走能および間葉系細胞マーカーである Vimentin タンパク質発現量に、有意な差は認められなかった。
今回、本研究では、Pdcd4 が細胞の浸潤能を抑制すること、さらに、その標的分子として、MMP-2 および Twist1 を in vitro 実験系において見出した。今後は、in vivo にて、Pdcd4 ががん細胞の転移能に与える影響を検討する予定にしている。 Pdcd4 による細胞のがん化・悪性化抑制機構を解明すれば、新たながん治療法の標的を提示することが出来ると期待される。
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Chem Pharm Bull
巻: 64 (6) ページ: 585-593
Biol Pharm Bull
巻: 39 (6) ページ: 903-908
http://ph.mukogawa-u.ac.jp/~yakuri1/