研究実績の概要 |
近年、創薬研究や再生医療研究への応用を目的として、ヒトiPS細胞から肝細胞を誘導する試みが活発に行われている。しかし、既報のiPS細胞由来肝細胞は、生体の肝細胞と比較し、機能的に未熟であることが知られている。 肝臓の発生は胎生中期に前腸内胚葉の一部が、心臓や横中隔間充織からFGFシグナル, BMPシグナルを受け、肝前駆細胞となることで開始する。その後、肝前駆細胞は、肝類洞内皮細胞や肝星細胞といった中胚葉由来の細胞からHGF, TGFb, Wntなど種々のシグナルを受け増殖する。増殖した肝前駆細胞は、各種の肝構成細胞との相互作用あるいは細胞外マトリクスからの刺激により肝臓における上皮細胞である肝細胞と胆管上皮細胞へ分化・成熟する。そこで、本研究では、ヒトiPS細胞由来の肝前駆細胞、類洞内皮細胞、星細胞を作製し、これら肝構成細胞を用いた共培養系を樹立することで、機能的な肝細胞誘導を試みた。 ヒトiPS細胞から肝細胞、類洞内皮細胞、星細胞を効率的に作製するため、それぞれの前駆細胞の純化と増幅ステップを取り入れた新たな分化誘導系を樹立した。次に、48ウェルプレートの各ウェル内にコラーゲンIゲルを作製し、iPS細胞由来の肝前駆細胞、類洞内皮細胞、星細胞を10:1:1の割合で播種し、10週間培養し、機能的な肝細胞の誘導を試みた。その結果、肝細胞の代表的な薬物代謝酵素のひとつであるCYP3A4の活性は、経時的に増加した。さらに、遺伝子発現解析の結果、iPS由来肝細胞におけるCYP3A4, CYP1A2, CYP2C19, G6PC, CPS1, TAT, PCK1の発現量は、初代培養肝細胞と同等であった。以上より、各種の肝構成細胞を用いた共培養系の樹立は、高機能性肝組織の構築に有用である可能性が示唆された。
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