研究課題
昨年度に引き続き、ラット脊髄神経節(DRG)培養を観察したデータの解析を進めた。長時間静止する大きなミトコンドリアのターンオーバーと相関する因子として、軸索におけるミトコンドリアの総量やミトコンドリアの長さ(融合傾向)はあまり影響しなかった。次に、実際に輸送速度や輸送されるミトコンドリアの数の変化がターンオーバーに影響する可能性について検討を進めるため、DRG神経細胞にレンチウイルスベクターを用いてミトコンドリアとその輸送蛋白を結合するMiro蛋白を強制発現させた系を用いて、ターンオーバーの変化を解析した。Miroの強制発現はミトコンドリアの輸送を更新すると過去に報告されている。実際に強制発現させた軸索では輸送されるミトコンドリアの数が有意に増加しており、また同時にターンオーバーの速度も有意に亢進していた。次に同様にレンチウイルスベクターを用いて、ミトコンドリア融合蛋白Mfn2の変異蛋白(Mfn2R94Q)を発現させた系において変化を解析した。Mfn2変異蛋白の発現は過去の報告と同様、ミトコンドリアの輸送を抑制し、またターンオーバーも抑制した。現在、有髄軸索に注目して、これらターンオーバーが有髄軸索においてどのような時間的・空間的特徴を持つのか、解析を進めている。また昨年度に引き続いて、ミトコンドリアと小胞体に注目し、ミクロトーム組み込み式走査型電子顕微鏡を用いて、マウスの中枢神経系で行った。その結果、ミトコンドリアと小胞体の豊富な接触部(MAM、mitochondria associated membranes)が軸索において認められた。またミトコンドリアの分裂がミクログリアの活性化に伴って顕著にみられるなどの結果が得られた。現在、動物数を増やしてMAMの変化を確認するとともに、脱髄軸索におけるMAMの変化について解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
ターンオーバーに関する研究においても興味深いデータが得られており、またミクロトーム組み込み式走査型電子顕微鏡によるデータ取得と解析も視神経に焦点を絞ってすすめており、全体としておおむね順調に進んでいると考えられる。
加齢に伴ってミトコンドリアの輸送が減少する傾向がみられることから、加齢に伴うターンオーバーの変化に注目して、ターンオーバーに影響を及ぼす因子の同定と修飾の影響について研究を進める。またミトコンドリアの生合成に関わるAMPKの修飾に伴うターンオーバーの変化の観察も進める。ミトコンドリア機能(膜電位)を比較するため、これらの処理下で膜電位感受性色素を用いたミトコンドリアの機能評価も行う。さらに、正常マウスと慢性脱髄モデルの中枢神経組織を用いて、電子顕微鏡用試料を作製し、ミクロトーム組み込み式走査型電子顕微鏡(SBF-SEM)を用いて連続電子顕微鏡画像を取得後、超微形態の3次元再構築を行い、ミトコンドリアと小胞体の相互作用の詳細な立体的分布および表面積を解析する。またミトコンドリアと小胞体の結合に関わる分子(Mfn2、VDAC1、IP3R)に対して包埋前免疫染色後にSBF-SEM観察し、ミトコンドリアと小胞体の相互作用における結合関連分子の分布を明らかにする。
異動に伴って、既に施設で保有されていた消耗品を使用することができたため、予定以上に積極的な成果発表に伴う費用の増大があったものの、当初の予定よりも大幅に物品費を削減し、研究計画を遂行することができた。今後、さらにデータの取得と解析を進めるとともに引き続き積極的な成果発表を行っている予定であり、これらの費用として使用する予定である。
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